鍾乳洞の中で水滴がポタンと一つ落ちてきた。この水を触れると、身体がすべて石灰になってしまうという。なんでここにいるかと言われたら、話が長くなるが、俺は、とある果物屋から好きなプラムを取っただけだったんだ。
けれど、店主が鬼の形相で追いかけてきて、警官にも追いかけられた。泥棒は重罪だとここは鍾乳洞の牢屋。罪を償うために入れられた。
プラムを食べたかっただけなのに、ただそれだけ。
仕事もなくてお金もない。腹が減っていた。大好きなプラムに目がくらんだ。どうしてよりにもよって、入荷するんだ。あの果物屋はと誰かのせいにしたくてたまらない。膝を抱えて、ぴちゃんとなる鍾乳洞の中、気が付くと空中にふわふわしたものが浮かんできた。
「なんだ、これ。ケセランパセラン?」
「誰がケセラセラじゃ、ボケー。緑リンゴか!?」
くるんと回って目と鼻と口を見せた白い生き物は、小さな身体で俺の頬をたたく。
「いったぁーーー」
「ぬぬぬ? お前何者だ」
「そそそ……そっちこそ。白いわけわからないやつ」
「……わしは、コウモリだ!」
「は?! 白いコウモリ? 絶対違うって、それ」
「違う、わしは、黒くなれなかったコウモリだ!!」
「…………か、かわいそう」
俺は、泣いて同情する。
「ぬぬぬぬ!! 白いからってバカにするでない!!」
「そうだな。白くてもコウモリっていうんだから、仕方ない。チョコにも茶色と白色があるように、コウモリだって白もあるかもしれないよな、うんうん」
「チョコと一緒にするな! ボケ!! わしはコウモリだ」
「そもそも、喋るコウモリも珍しいけどな」
そんなやり取りを白いコウモリと一緒に話してるうちに、いつの間にか喧嘩をして、閉じ込められていたはずの鍾乳洞から抜け出していた。どうして、外に出られたか覚えていない。白いコウモリが喧嘩しつつもこっちだと誘導していた。なんで閉じ込めらていたかなんて聞かれもしなかった。俺はなんてラッキーなんだと思いながら、あーだこーだと白いコウモリと話しまくった。人間と話すよりもすごく話していた気がする。
鍾乳洞の外に出てすぐ、白いコウモリが話し出す。
「んで? お前はなんでここにいる?」
「……ま、いいじゃないか。外の空気はうまい」
「あ、まさか。お前、罪人か!?」
白いコウモリはハッと現実に向き合った。本当は牢屋の番人として雇われていた白いコウモリは、罪人の男をみすみす逃がしてしまった。一目散に走り逃げていく男がいた。