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第7話 もふもふのあいつ

 ひやりとした風が吹く朝。

 朝ごはんも適当に今日も学校に向かっていた。

 首にマフラーをつけて、まだまだ風が冷たくて寒い。


春になろうとしているのに、ダウンジャケットが手放せない。


昼間は時々、暑くなる時もある。

今日も何を着たらいいか、わからないくらいの朝晩の気温差が激しい時期だ。


 あくびをしようものなら、

 白い息が出る。


 ワイヤレスイヤホンをバックから取り出して、Bluetoothでスマホに連携させようとすると、電柱のそばで白いもふもふの生き物がもぞもぞと動くのが見えた。


 体が固まって動けなくなる。


 それは、これから何が起きるかと気になって意識的に動けないのだ。心臓の音が早まるのがわかった。白い物体はふわふわの毛をあちこちに飛ばして毛づくろいしている。


これは、一体何の生き物なんだろう。


「ふにゃっ!」


 かわいい声が響いた。猫なのか、犬なのか。すごく謎すぎた。学校に行くことなんて忘れてしまう。電車の発車時刻ぎりぎりに出てきたはずが、頭の中は真っ白い。目の前の生き物と同じになってしまった。くるりと白い物体は動いた。黒くまんまるのくりくりした目が可愛い。口はピンク色で小さい。ハムスターなのか。猫なのか。とにかくもこもこでふわふわでぬいぐるみみたいだ。俺は、鼻息を荒くしてスマホのカメラを起動させた。動画を撮ることを咄嗟に思いつく。


「に、にゃ~」


 ごろんと甘えたそうな恰好にお腹を見せた。猫のようにごろごろと鳴いている。


「か、可愛すぎる!?」


 思わず、動画を撮る前にお腹に触れて、ふわふわを撫でた。心がものすごく満たされた。もこもこが好きで、ふわふわももっと大好きだった。頬が赤くなるのがわかる。ずっとこうしていたい。飼いたい。ペットにしたい。白いその生き物への欲求でいっぱいだ。


「だ、だまされたなぁ?」


「しゃ、喋った?!」


 俺は、夢中になりすぎて現実を忘れていた。スマホの時計を見ると、すでに乗る予定の電車時刻を過ぎていた。がくっとうなだれた。


「ふふふ……」


 それが作戦だったのか、白いやつは不敵な笑みを浮かべて二足歩行になる。よく見ると白い猫だった。


「な?! ね、ね、猫? 喋った?!」


「猫に見えるのか。こんなもふもふの猫いるのか!」


「いや、今ここにいるだろ。もふもふの猫」


「あー、ぼくのことか! そ、そうだ。猫だ」


「訳わからねぇなぁ……」


 白い猫はえへんとえばり、しっぽを揺らしながらジャンプしてどこかへ消えた。なぜそこに現れたかは謎だった。


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