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第11話 探しものはなんですか?

「ねぇ、ここに置いてた爪切り知らない?」


 母はいつもモノの行方不明事件を起こす。必要な時に必要なモノがいつもしまう引き出しにない。あとで片付けるつもりで棚に置きっぱなしだった。


「ここだよ。ここ」


 長男である俺はいつも代わりに見つける。爪切りは、リビングではない、洗面所の引き出しに入っていた。


「あー、忘れてた。そうよ、そこよ。きっと小さな妖精がいたずらして、そっちの引き出しに持って行ったんだわ」



母はたまにおかしなことを言う。自分の失敗をメルヘンチックに話し出す。


「そう言うときはさ、素直にごめんなさいでしょ?」


 高校生の息子に叱られる母親。もちろん、返事は子供のように、はいを2回いう。謝る気はゼロだ。昔の俺みたいだ。


「ねぇ、理玖。ここに置いてたさ、綿棒知らない?」


 また始まった。


「また、そうやって妖精のせいにするんでしょ?」


 母は、綿棒のある場所を見て固まった。置くはずのない、照明器具のさらに上に挟まってある。俺の身長にも届かない高さだ。


「ねぇ、あれはひょっとするとひょっとするかもね!」


 母は興奮のあまり俺の腕をバシバシたたく。俺はそんなわけはないとそっと、手を伸ばして綿棒の入れ物を取った。その瞬間、金粉が舞い降りて、とんぼのような羽根をつけ

た小さな妖精がふわりと飛ぶ。置き時計の裏に隠れている。


「なぁ、母さん。今の、見たよな??」


「私の目がおかしいのかしら。メガネ買わないといけないかしら」


「いや、本物だって。ものを無くすのは、もしかしたら本当にアレの……」


 また金粉が空中を舞っていく。時計の裏にいた緑の服着た妖精は、目の前を飛んで、開いていた窓の外に逃げていった。どうして、俺は窓を開けてしまったのだろうか。もっと、妖精の姿を見ていたかったのに、逃げられてしまった。


「あの金粉を集めたら、お金になったのかしら……」


「おい、気にするところそこじゃねぇだろ?」


「え、嘘。そうだった? やっぱり、妖精を捕まえておくべきよね」


「そ、そうに決まってる!」


 俺はそう言ったが、果たして捕まえるのはひどいことではないのかと自問自答した。捕まえたところで、何をするつもりか。鼻から血が噴き出す。


「あんた、何を想像してるのよ。このスケベ。父さん、そっくりだわ」


 バシッと頭を叩かれる。


「ちげーっつぅーの! 花粉症だ」


 ティッシュを鼻に詰めて落ち着かせた。


 窓の外を覗くと、もう妖精の姿は、見えなくなっていた。俺はがっかりした。

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