カチカチと時計の針の音が響く。今日も畳が敷かれた和室で家族の洗濯して乾燥機で乾かした服をたたんでいる。学校に行った子供も午後には帰宅する。ぼーっと頭に何も入ってこない。音楽も聴かなければ、テレビも見ないこの空間に時計の針だけが響いていた。私は一体何をしているのだろう。
娘の着た長袖のシャツをたたみ、それぞれの服を整えていると、乾燥機の中の光が青白いことに気づく。UVカット機能が付いた乾燥機。この不気味に光るこの中に入ったらどうなるのかとそんなことを考えていた。
すると、ピンポンとインターフォンの音がした。台所にあるインターフォンのモニターを確認しようと、和室のふすまを開けようとした。着ていた服が背中の方で何かに引っ張れる感覚があった。来客があるのに進みたいのに進めない。何が起こったのか。
「な、なにこれ。どうして先に進めないの!?」
私はその言葉を発した瞬間、中身が空っぽの青白く光る乾燥機の中にどんどん体が吸い込まれていく。ハンガーかけの鉄の棒につかまっても、もう遅かった。インターフォンが何度も鳴る頃には私は、吸い込まれて別な場所へ移動していた。狭い乾燥機の中に閉じ込められると思ったら、出てきたところは、近所の公園にそっくりだった。
「見慣れた鉄棒と、錆びたジャングルジム、それにブランコ。家の近くの公園?」
時々こどもたちとともに遊びに来ていた小さな公園にいた。靴も履かずに薄着のまま。なんでここに飛ばされたんだろう。戻る方法は自力なのだろうと、家の方角へと足を進めようとした。すると、家の門の前に見たこともない大きな黒いワンボックスの車が止まっていた。さっきのインターフォンはあの車なのかと恐る恐る近づいたが、足が動くことを許さない。見た事もないサングラスをかけた男性が玄関から急いで走ってくるのが見えた。何をしていたのだろうか。車の運転席に乗る姿も見える。鼻には焦げ臭いにおいが漂ってくるのを感じた。家の方を見ると、大きな炎が舞い上がっていた。あのまま、家の中にいたら、炎の中で燃えていたのかもしれない。犯人らしき男性は車を走らせて逃げていく。追いかけることはできなかった。足がガクガク震えて、進むことができない。腰が抜けた。
「大丈夫?」
近所の大沼さんが声をかけてくれた。家の中が燃えているが、命が助かって本当によかった。静かに涙が頬を流れていくのがわかった。パチパチ燃える音が響いていた。