「ねぇねぇ、あそこの駄菓子屋行ってみない?」
春休みになってすぐ、友達の香夏子の家に遊びに来ていた。100均一で買ったばかりのスライム遊びに夢中になっていたが、だんだん飽きてきて思いついた近所の駄菓子屋の情報を聞いていた。
「最近、できた小さな駄菓子屋? まだ行ってなかったね。行ってみようかな」
「駄菓子っていうくらいだから小銭で買えるよね」
「たぶんね。おばあちゃん、みっちゃんと一緒に新しくできた駄菓子屋行ってくる」
「あー、そうなの。気を付けてね」
「はーい」
台所作業していた祖母はエプロンで手を拭きながら、私たちを覗き来た。
「よし、バックも持ったし財布も持った。行こう、みっちゃん」
「うん。お邪魔しました」
私は、香夏子の家を出た。ガレージにとめていた自転車のかごに荷物を乗せる。
「待って、私も自転車で行くよ」
香夏子は、自転車のかぎを開けて、荷物をかごに乗せた。スタンドをあげて、サドルに座った。屋根の上にいたスズメたちが一気に飛び立つのが見える。
自転車で5分もかからないところに真新しい駄菓子屋があった。電柱にはカラスが3羽いた。
「ここだよね。神社っぽい雰囲気あるかも」
「隣に神社の御社あるものね。店長は神社の神主さんらしいよ?」
「へぇ、そうなんだ」
私たちは出入り口付近に自転車を止めると、のれんをくぐった。昔ながらある駄菓子がところせましと並んでいた。風船ガムや、きなこ棒、ねり飴にぐるぐるの大きな飴、水に溶かして飲めるサイダーなど数十円で買えるものが多かった。レジの横の一番大きな商品棚には、500円と書かれた蛇口の形をした玩具があった。
「ねぇ、みっちゃん。見てよ。蛇口だって。これ、おもちゃかな? なんでも好きなものが飲める蛇口だってよ」
「嘘、好きなものってすごくお得! 500円でしょ。しかも蛇口だからたくさん飲めそう。私、買う!」
みっちゃんは、私がすすめると目の色を変えてすぐに商品を取り出した。私は怪しいなと感じて買うことはしなかった。にこにこしながら、レジに持っていく。
「お買い上げありがとうございました」
みっちゃんは、家まで待ちきれず、店を出てすぐの鳥居に蛇口を装着して水筒に入れてみた。
「すごい、好きなジュースがジャンジャン出る! 最高じゃん」
みっちゃんは、水筒に入れて次々と狂ったようにがぶがぶ飲んだ。何を飲んでいたかわからないが、水筒だけを残して体が消えていた。
どこを探してもいなかった。