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第18話 どこまでも続いている

 雲一つないよく晴れた青空の下の大きな公園で、小学2年の駿介しゅんすけは、滑り台で遊んでいた。この滑り台は、普通の滑り台と比べて、30段以上の階段を上り終えてから滑るものだった。カラフルな色の装飾で黄色いトンネルを抜けたら、青い空間を10ⅿくらい進んでいた。まるで氷の中で滑るボブスレーのようだった。勢いを増して、快感を得た。


「何、これ。めっちゃ、楽しい! 最高じゃん。もう一回滑る」

「駿介~、帰るよぉーーー」


 抱っこヒモで1歳の弟の奏太そうたをおんぶしていた母の優衣ゆいは、手招きしていた。駿介は、ちょっと遠くで叫ぶ優衣の声を無視して、気にせず何度も滑り続ける。


「うっひょぉーーー。すっげー楽しい!!」

「駿介ーーーー」


 イライラしながら、叫ぶ優衣の声がスローモーションで野太い男の人の声に変化した。目の前の空間が歪み、滑り台を進み続けると、終わりが見えなくなった。とまらずにずっとずっと同じ青くつながっていた。体が滑って、とまらない。だんだん楽しさから恐怖を覚える。これは、一体どこに行くんだろうと駿介は自分の体をぎゅっと抱きしめて、縮こませた。目をぎゅっとつぶって、恐怖を紛らわせた。体が少し宙に浮く。


「駿介!!!」


 パチンと額に衝撃が走った。優衣の声がいつも通りにうるさかった。景色が変わっていた。


「あ……あれ?」


 いつの間にか、滑り台を滑り終えていた。元に戻っている。


「ちょっと、駿介。いつまで滑ってるのよ!! 奏太のおむつ取り換えにいかないといけないから行くよ。夕ご飯の準備もしないといけないから」


「え、あ。うん。お母さん、おやつも食べたい!!」

「えーーーー。何回言っても、返事なかったからなぁ。どうしようかな」

「ごめんなさい! 聞こえなかったから」

「えー、仕方ないなぁ。今回は、素直に謝ったから。おやつはポテトチップスね」

「わーい。やったぁ」


 走り去って行く優衣の後を駿介は、ひょいっとジャンプして追いかける。さっきの空間はなんだったんだろうと思いながら、後ろを振り返った。長かったはずの大きな滑り台は、シンプルな滑り台に切り替わっていた。駿介の滑った滑り台はどこにあったんだろうかわからない。背筋がぞわぞわとしたが、気にしないようにして優衣の左腕をしっかり握りしめて、ゆっくりと歩いて帰った。


 公園の端っこにある木の上では、少し大きなカラスが駿介の背中をじっと見て、いなくなったのを確かめて、カァと一声鳴いて飛び立っていった。


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