「じゃんけんしよう」
「じゃんけんぽん。あたしの勝ちだから時計回りでね」
「うん」
学校の休み時間、仲良し女友達3人でトランプゲームをしていた。そのゲームは銀行ゲーム。トランプカードをお金に見立てて、誰が一番稼ぐことができるのかシンプルなゲームだ。最初に配る枚数は一人5枚ずつ平等に渡される。山札から1枚とり、それが2~9であれば、100円として使い、10とJQKは、500円に。Aは千円で、ジョーカーは3千円として使う。山札から取った1枚を参加したメンバーから徴収する。なければ、借金をして後から返すという現実っぽいゲームだ。5枚から始めたトランプもやっていくうちにみるみる0枚になることもあれば、ザクザクとお金持ちになる。不思議な感覚に陥る。
やっていたトランプゲームの上にふわりと親指くらいの騎士が浮かんでくる。グレードソードを握りしめ、チェス盤の上にいるみたいに戦おうとしていた。その様子を見ていたのは彩香だった。
「え、これ、けがしちゃうんじゃ……」
刃物の音が響く。
「彩香、早く、100円出して」
「え、愛佳。見えないの?」
「は? なんのこと」
「ほら、私も出したから。彩香も出すんだよ」
心愛が、Jのトランプの上にいる騎士をすり抜けて、100円であるスペードの5を愛佳の手札に乗せた。彩香は、目をこすった。さらに隣にあるハートのQのカードの上には親指の大きなの豪華な椅子に座った女王様が目で睨みつけてくる。
なんだこれはと目を疑った。トランプに集中できなくなる。
「さっきからどーしーたーーの?」
愛佳の声がスローモーションになって太くなる。どういうことかわからない。今トランプゲームで銀行をやっていたはず。目がくらくらしてきた。
「彩香! 彩香!! 先生に呼ばれてるよ?」
世界史の授業中、彩香は机の上に顔を埋めて、よだれを垂らして爆睡していた。問題の答えを解くようにと指名されていたようで、隣の席の愛佳に呼ばれた。
「ふへぇ!?」
完全にねぼけている。休み時間に使っていたトランプはノートの上にあったが、親指ほどの実体化はされていなかった。彩香の知らない窓際で、スペードのJの騎士が景色を眺めてジャンプする姿なんて知る由もない。中庭に飛び降りた騎士は、剣をカチャカチャ鳴らして走り去って行った。
「問題ってなんですか?」
彩香は、寝ぼけ眼で世界史の教科書を開いて立ち上がった。開いたページにあった騎士のイラストが消えていた。