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第21話 弟の念が強かった

「ストライク!! やったね」


 今日は、家族4人でボウリングに遊びに来ていた。長男の悠翔はるまは、小学4年でボウリングを初めて2年は経つ。だんだんコツをつかんで、ピンを10本倒すストライクを重ねてできるようになっていた。

 昔、プロボーラーとして活躍していた父と比べたら、月とスッポンだが、息子が結果を出せるようになり、微笑ましい父だった。


「悠翔~、やるじゃないか。そこまで練習重ねてないのに、すごいな」

「へへへ、見よう見まねだよ。父さんのやり方をじっくり観察していただけ」

「兄ちゃん、ばっかりずるい! 僕もストライク狙うんだ」


 次男の晃泰あきひろは、年長児でやっとこそボウリングが何かと覚え始めたばかりだった。母とともにレーンまで歩き、両手でボールを持つ。


「ストライクだぁーーー!」


 もちろん、幼稚園児はガターにならないキッズサポートがついている。のんびりゆっくり進んでピンのは7本倒れた。


「むむむ!! あと少しだったのに~」

「甘い甘い!!」


 悠翔は、強さを見せたくて、回転させたボールを転がした。見事、残り3本のピンを倒す。モニターには花火のイラストにスペアと表示された。


「おめでとう」


 妻の佑子は、複雑な気持ちを持ちながら、長男の悠翔に声をかけた。


「なんで、そんな顔なわけ?」

「晃泰がやってたのを奪っちゃだめだよ」

「……すいませんでしたぁ」


 悠翔は、頬を膨らまして、もう一度最初からボールを気持ちを込めて投げた。すると、レーンがぐわんとデコボコに動き、ピンの10本がスポンジの様にふわふわと転がっていく。ボールで倒す前にぐだぐだと崩れた。ストライクではなかった。


「はぁ?! なんで、どういうことよ」

「ちょっと、悠翔。大きな声出しすぎ。恥ずかしいからやめて」

「え?」


 母の声に反応した悠翔を振り返った。ガタンとボールが落ちる。完全なるガターになった。


「何やってるの?」

「げ、マジで。嘘だろ。そんな。ストライク狙うつもりだったのに」


 目を何度もこすって、現実を直視する。ピンは1本も倒れていない。


「悠翔、大丈夫か? 晃泰と一緒にガターサポートやった方いいじゃないのか?」


 父の義則よしのりは、笑いながら言う。拳を握りしめ、イライラする悠翔は、もう一度ボールを持ち上げて、すぐに投げた。回転して大きな音でストライクになった。一瞬、夢を見ていたのかもしれない。


「俺は強いの!」

 晃泰の顔に近づけて、睨みつけた。兄弟の喧嘩が始まる。


「悠翔!!」


 母の怒声が響いた。


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