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第22話 レインボーの不思議なジュース

 朝起きると、外でスズメが鳴いていた。何も変わらないいつもの朝。25歳。早く結婚しろと急かす母親の電話にうんざりする毎日。いつになったら、孫の顔を見せてくれるのと何度聞いたことか。ベッドから起き上がり、スマホのアラームを消す。恋人いない歴25歳。今の職場に就職して1年。

 仕事に夢中で恋人を作る余裕もない。PCとにらめっこし、取引先の顧客との交流して、電話して書類を出してと、忙しなく過ごす。上司と部下にも恵まれて、平凡な日々だ。悩みとしては肩こりと目の上のたんこぶの母親のメッセージ。


「お疲れ様。また明日もよろしくね」


 2歳年上の先輩の礼香あやかもキャリアウーマンで結婚の影も見えない。きっと将来の自分もあんな感じだろうなと思いながら、家路を急ぐ。


――アパートの玄関のカギを開けて、中に入ると受けポストから、ひらりと何かが落ちた。レインボーカラーで描かれた広告だった。

『あなたの心変えませんか? 人生を薔薇色に』

 と書かれたものがA4クリアポケットに入っていた。さらにもう一つ粉末状のジュースのパッケージ。それもレインボー色だった。いかにも怪しい。


「何これ」


 不思議に思いながらも、試飲できるジュースが封入されている。初回なら20Pが2000円で購入できるらしい。効果は1回飲むだけで1年間持続とのこと。


「安いし、1年って、割に合わない商売ね……」

 怪しいなぁと思いつつ、買わなくても1回だけならとコップ1杯の水に粉を混ぜて飲んでみることにした。今の充実していない毎日を変化させたい一心だ。飲んでみると、味は柑橘系フルーツ系だ。


「うん、まぁ。美味しいわ。本当にこれで人生変わるの」


 半信半疑でごくんと全部飲み干した。体はいたって普通。健康そのもの。何も起きるわけないだろうと、一度トイレに行ってすっきりさせた。ガチャリとドアを開けると、キッチンには短髪黒髪の好みのイケメン男性が、朝に使っていた食器を洗っていた。どこのだれかわからない。

陶華とうか、今帰ってきたなんだ。洗いもの済ませるね。洗濯物は頼んでいいかな。それと、つむぎなんだけど、まだ保育園迎え行ってないか

ら、これ終わったら行ってくる」


 情報が多すぎて、頭がくらくらし、ショート寸前だった。


「……あ、うん。ありがとう」


 陶華は切り替えて臨機応変に対応する。これは、ジュースの効果なんだと理解した。口角が上がり、にやにやと笑いが止まらない。結婚して子供がいる生活が突然始まった。

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