ひとりぼっちの僕。集団の中に入るのが怖くていつもひとりでいる。話しかけることが苦手でいつも受け身。学校でもぽつん。
泳ぎが苦手で体育の時間に同級生に馬鹿にされた。ママにスイミング通ってみたらって言われて、悔しくて通おうとするがやっぱり習い事も苦手。家族と一緒なら、できるんだとママと一緒にスイミングセンターに行った。男子更衣室で着替えるのは1人でも大丈夫。
いざ、プールサイドで準備体操して、泳げない僕をママは誘導する。なんだか他人の視線が気になって、1人でやってみたくなった。小学生の僕がママといるところ、見られたくない。
「もう大丈夫だから!」
ママの手を払って、プールサイドギリギリの淵につかまって、必死に泳ぐ。1人で頑張らないと思って、角にしがみつく。何だか疲れてきて、顔を水につけてみた。すると、キラキラ煌めく虹色球体がプールの中にぶわんぶわん動いていた。
「なんだろう、これ」
スライムみたいな形が気になって、ずっと追いかけていた。怖かった水の中が夢中になって、平気になっていた。スライムボールみたいなそれを触りたい一心で、ぶくぶくと泳ぐ。
「光希、どうしたの? 泳げているよ?」
いつの間にか、ビート板も無しにスイスイ泳げていた。
「あのね、虹色の……」
「泳げなかったのに、良かったじゃない。しっかり泳げて!」
ママは涙が出るほど喜んだ。でも、自分の力で泳いだわけじゃなくて、虹色のスライムボールのおかげだった。不思議なことだったけど、ママには黙っておこう。
「僕、凄いでしょう? へへん。やればできるんだから」
腰に両手をつけて、威張ってみた。ママは拍手をして褒めてくれた。
「その調子でこれからも頑張ってね」
「うん。わかった。頑張るよ」
この時から、僕はひとりでいることが怖くなくなった。平気になった。自信もついてきた。泳ぐことに苦手意識もない。助けてくれたのは、きっとあの虹色ボール。
「ねぇ、君って何年生?」
ママから離れて泳いでいると、プールで泳いでいると知らないお友達から声をかけられた。声をかけられたのは初めてのことだ。
「え?」
「僕は、小学2年だよ」
「あ、えっと、同じだよ。よ、よろしく。僕、光希」
「光希くんね。僕、紘太。名前も似てるね」
歯をキラリと光らせて、笑った。友達ができた瞬間だ。
「一緒に泳ごう?」
「うん!」
虹色のスライムボールみたいなあれは、排水溝に吸い込まれていった。2人はバシャバシャと泳いだ。