「先生、お時間です」
庭にある鹿威しがカツンと鳴る。ここは、砂利に波のような模様があり、まるで海のようになっていた。縁側で、着物を羽織った狐が一人。高級な着物を羽織った狸が真剣な面持ちで目を閉じる。
「客人が参った」
「はい。施術をする時間ですよ」
「狐よ。倉庫から、大きな扇子を持ってきておくれ」
「はい。先生」
目をつぶっていた狸は、立ち上がり、気合を入れて魔法陣を作る。さっきまで晴れていた空が真っ黒い雲が覆い、モクモクと煙のようなものが漂った。
「来るぞ!!」
「今、持ってきます!」
狐は急いで、倉庫から体から大きな扇子を運び出したが、少し遅かった。煙の中から現れたのは、背中に得たいの知れない大きな物体に憑依された天狗が降り立った。
「たのもーーー」
低い声を出して狸の元にやってきた。憑依しているものを除霊してほしい一心で狸に懇願する。
「おうおう。大きい者を憑けてきたなぁ。狐、お前も扇子を持っておけ」
「はい! 先生、お任せを」
狸は先に渡された赤く大きな扇子で、全身の力を使って仰いだ。
「悪霊退散!!」
「いっけーー」
狐も一緒に隣で小刻みに扇子で仰ぐ。微力ながら、小さな霊力を振り絞った。狸の力に比べたら、雲泥の差だった。緑色の煙がぐんぐんと狸の扇子から湧き上がり、黒い煙を巻き込んでいく。天狗は苦しそうなうめき声をあげて、倒れていく。黒い煙が晴れていくと、ちょこんと下の方に小さな灰色のネズミがきょとんとした顔をしてチューと鳴いた。
「天狗さんに憑いていたのは、君だったのかぁ。小さいくせに大きく出たもんだなぁ」
「私よりも小さいものでしたね」
狐は、ネズミを手のひらに乗せてじっと見つめる。除霊されて、ぐったりと倒れた天狗が汗をたっぷりかいて起き上がった。
「あーー、そいつは、私の扇子を奪った犯人です。なんでか体が小さいくせに奪っていきやがった」
「自分の体に憑いてたものを祓いたかったのかもしれんなぁ」
「予知していたのですかね、ネズミさん」
「ああ、そうかもしれない」
ネズミは狐の手をかぶっとかじるとささっと逃げ出した。天狗の扇子で浄化できることをネズミは知っていた。ネズミに憑いていたものは一体なんだったのか。狸は、人とも動物とも言えないものを見た。
「何が憑いてたかはわからないなぁ」
「除霊はできたんですから、いいですよ」
「まぁ、気をつけよう。お前にも憑くかもな」
「うひゃ!」
狐は驚いて後退したが、何もいなかった。