今日は、高校の入学式。地元から離れた都会の私立高校を受験した。地元の友達は誰もいない。一緒に行こうと誘ったこともない。ただ一人、ここの学校がいいと両親に懇願した。別に地元中学のメンバーが嫌いになったわけでもない。いじめでもない。心機一転に変えて見たかった。何かが変わるかもしれない。
「おはよう、木村。今日、一緒に帰ろうぜ」
茶髪の陽キャラな男子が自分の肩にぶつかって通り過ぎていく。友達を見つけて立ち去った。眼中に無いらしいが、別に気にしなかった。スマホで電子書籍を読みながら歩いてる自分もよくないってわかっている。
「俺さぁ、地元だけど他のところからいろいろ来るんだろ。人見知りでさ、緊張するんだよね」
(どこらへんがそう思うのだろうか……ちょっと考えが変だな)
俺は、陽キャラの男子の言動に疑問符を感じた。教室に着くと、さっき会った陽キャラ男子が隣に座った。俺が席に座ると顔が引きつって本当に緊張していた。俺は、友達って作ろうと思って作るんじゃなくて、相性が良かったら友達になると思っていた。無理に苦手だなと思う男子には極力近づかない自分の中のルールがあった。
「あー。俺ってチキンだよなぁ……」
大きな独り言を言って、後頭部に手をつきながら、イスをぶらんぶらんと動かした。何をしているんだろうと、チラリと横目で覗くと、頭の上に白いフワフワとしたものが浮いていた。煙かなと気になった俺は手を伸ばした。
「へ? う? うわぁ~~~」
ダンッという音とともにイスが倒れて背中が倒れた。
「大丈夫?」
俺は、彼の頭の上でパチンと指を鳴らして、白いふわふわしたものを除霊した。
「え、誰??」
隣にいるはずなのに名前を把握していない。お互いだ。
「名前なんていいよ」
俺は、腕を貸して彼の体を起こした。友達になるつもりはなかった。そのまま席に戻り、イヤホンを耳につけて自分の世界に入った。学校で友達を作るのは労力がいる。一人でいる方が気楽だ。
「なぁ、佐々木」
休み時間に机の上に顔だけ乗せて覗く隣の席の彼は、猫のように見つめる。
「え、うん」
「何の歌聴いてるん?」
「あ……」
聴いてる曲を知られたくなかった。興味を持たれてしまった。本当は近づきたくなかった。
「俺、この曲ありだわ」
「ふーん」
素知らぬ顔をして、窓の外を見た。
「……ツレないやつだなぁ。昼休み、購買部付き合えよ」
不機嫌に誘ってくるが、まぁ、悪くない。返されたイヤホンが嬉しかった。