春になり、高校1年になった俺は、スマホ代金を稼ぎなさいとうるさい母の言われの通り、アルバイトをすることになった。部活動は入らなくてもよい学校だということもあり、帰宅部として邁進する。まぁ、その時間をバイトに変更するだけだ。中学の時は野球部だったが、さほどうまくない。辞めても悔いはない。
「いらっしゃいませ。レジ袋はいりますか?」
「エコバックあるので大丈夫です」
主婦の方だろう。リラックスした格好で飲み物とパンを買っていく。さらに電子タバコを注文した。今のコンビニは品出しの他にレジの使い方が派生している。現金払いにクレジットカード、キャッシュレスQR決済やクオカード、チャージ式電子マネーなど様々だ。覚えるのが大変だった。自分自身もチャージタイプを使っているから分からなくもない。
「QRコードでお願いします」
商品をエコバックに詰めて、金額を提示した瞬間に女性は目をギラギラさせて言う。初めて使うのか緊張してるらしい。
「こちらのボタンをお願いします」
俺はレジのボタンを誘導した。すると、どういうわけか主婦の姿から、だんだんにしっぽが生えて、ふわふわの白い毛が逆立った。頭から白い耳も出ている。目が赤く光った。何の動物か。左手にはスマホを持っていた。
「あ、これか!」
レジの画面をぽちっと押すと安心したようで、元の人間の姿に一瞬で戻った。俺は、不思議な姿に息をのんで後ろのカウンターにのけぞっていた。
「ご、ご利用ありがとうございま……す」
スマホのバーコードをピッと読み取った。話す言葉を間違えたような気がした。立ち去っていく彼女のお尻から尻尾が伸びていた。
「ありがとうございました~」
言葉は真面目に顔が引きつっていた。あれは何の動物だったのか。気になって追いかけたが、もういなくなっていた。
「不思議なこともあるもんだ」
コンビニの出入り口、さっきのお客さんが持ってたとされるエコバックだけが落ちていた。買ったはずの商品は入っていなかった。駐車場に車がとまっている。お客さんの出入りが急に増えてきた。
「……もしかして、お客さんを呼び寄せたのかな?」
俺は袋を拾って元の持ち場に戻った。店長に話を聞くと近くに稲荷神社が祀られていることを知る。祠が倒れていたのを直して、しっかりとお賽銭を入れて、手を合わせて拝んだ。それからは、もうお店に来ることはなかった。
見つけてほしかったのかもしれない。
私ここにいるんだよと―――