「飴ちゃんちょうだい!」
小学4年の
「ダメ。飴はデザートにしよう。今から夕飯食べたら、おいしさ半減しちゃうよぉ。おかあさんのご飯いらないのぉ?」
「えー。先に食べたいよぉ」
「……おかあさんのご飯もしっかり食べるって言うなら、出さないこともないかな?」
「わかったよ。残さず完食するから!」
「うん。んじゃ、いいよ。でも、待って。飴って今日、何個目なの?」
「……え?」
とめようとした母の声に怜奈は反応する。すでに遅かったようで、お口の中に飴が1つ入っていた。舐める前にごくんと飲み込んでしまう。
「うわっ、びっくりした。おかあさん。急に話すから舐めないで飲み込んじゃったよ!」
「……言うのが遅かったか。怜奈ってもう飴たくさん食べていたよね?」
「え? それがどう……うわわわーーー」
母が言う前に怜奈の体がぷくぷくと風船のように膨らみ始めた。さっき食べた飴が桃味。桃みたいにぷわんと丸みを帯びていく。
「おかあさん?! これ、どういうこと? 体が勝手に浮かんで、行く方向がぁ」
大きく膨らむと風船のようになり、体を操縦ができない。
「あーあ。いわんこっちゃない。その飴、5個以上食べ過ぎると風船みたいに膨らんじゃうのよ。裏の説明書きを読んでなかったわね?」
「そ、そんなぁ、知らないよぉ。5個以上ってそんな食べてないよぉ……たぶん」
「ほんとに?」
「ほ、ほんとだよ。夜の分は数えないでしょ?」
「ま、まさか。夜中に起きて食べたの?! なんてことを。お菓子ばかり食べるからそういうことになるのよ。しっかりごはん食べなさいよ!」
「実は……食べちゃった」
「あーあ」
母は、顔をおさえて呆れてしまう。ため息がとまらない。天井まで浮かぶとパンッとお腹風船が割れて、萎んでいく。体が一気に小さくなった。アリさんより小さくなる。声が高音になる。
「おかあさん、助けて!!」
「しばらくそのまま反省しなさい」
母は、そう言ってドンドンと大きな音を立てて、キッチンに向かった。床が地震みたいに揺れた。まるで特撮映画だ。怜奈は、あっちこっちに右往左往して慌てるが、どうしようもなくなる。
―――目を覚ますとベットの上だった。夢だったみたいだ。怜奈はしばらく飴を食べることはしなかった。夢でも怖くてトラウマになってしまった。
「飴いる?」
「いらない、いらない!」
「桃飴だよ?」
「絶対いらない!」