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第31話 恐怖の桃

「飴ちゃんちょうだい!」


 小学4年の怜奈れなは、これから夕飯だというのに、母にポーチにたくさん入った飴を欲しがった。


「ダメ。飴はデザートにしよう。今から夕飯食べたら、おいしさ半減しちゃうよぉ。おかあさんのご飯いらないのぉ?」


「えー。先に食べたいよぉ」


「……おかあさんのご飯もしっかり食べるって言うなら、出さないこともないかな?」


「わかったよ。残さず完食するから!」


「うん。んじゃ、いいよ。でも、待って。飴って今日、何個目なの?」


「……え?」


 とめようとした母の声に怜奈は反応する。すでに遅かったようで、お口の中に飴が1つ入っていた。舐める前にごくんと飲み込んでしまう。


「うわっ、びっくりした。おかあさん。急に話すから舐めないで飲み込んじゃったよ!」


「……言うのが遅かったか。怜奈ってもう飴たくさん食べていたよね?」


「え? それがどう……うわわわーーー」


 母が言う前に怜奈の体がぷくぷくと風船のように膨らみ始めた。さっき食べた飴が桃味。桃みたいにぷわんと丸みを帯びていく。


「おかあさん?! これ、どういうこと? 体が勝手に浮かんで、行く方向がぁ」


 大きく膨らむと風船のようになり、体を操縦ができない。


「あーあ。いわんこっちゃない。その飴、5個以上食べ過ぎると風船みたいに膨らんじゃうのよ。裏の説明書きを読んでなかったわね?」


「そ、そんなぁ、知らないよぉ。5個以上ってそんな食べてないよぉ……たぶん」


「ほんとに?」


「ほ、ほんとだよ。夜の分は数えないでしょ?」


「ま、まさか。夜中に起きて食べたの?! なんてことを。お菓子ばかり食べるからそういうことになるのよ。しっかりごはん食べなさいよ!」


「実は……食べちゃった」


「あーあ」


 母は、顔をおさえて呆れてしまう。ため息がとまらない。天井まで浮かぶとパンッとお腹風船が割れて、萎んでいく。体が一気に小さくなった。アリさんより小さくなる。声が高音になる。


「おかあさん、助けて!!」

「しばらくそのまま反省しなさい」


 母は、そう言ってドンドンと大きな音を立てて、キッチンに向かった。床が地震みたいに揺れた。まるで特撮映画だ。怜奈は、あっちこっちに右往左往して慌てるが、どうしようもなくなる。


―――目を覚ますとベットの上だった。夢だったみたいだ。怜奈はしばらく飴を食べることはしなかった。夢でも怖くてトラウマになってしまった。


「飴いる?」

「いらない、いらない!」

「桃飴だよ?」

「絶対いらない!」




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