『ねぇ、今どこにいる?』
ショッピングモールで買い物中、トイレに行ってくると言った彼女は焦るように電話をかけてきた。人混みが嫌いで、人酔いをする彼女は、1人になる時間が嫌だった。どうして、1人で行くなんて言ったのかわからない。いつもは途中まで一緒に行こうと言うはずだった。
『今、フードコードの入り口付近だって。場所わかる?』
『嘘、そこどこだろう。まぁ、いいや。大丈夫、行ってみる』
今日は、いつもよりハキハキと話すし、先に進むのも俺よりもぐいっと引っ張っていく。別人のようだった。
「あ、辰也。もう、ここにいたんだ。見つかって良かった」
落ち合ってすぐ、俺は、彼女の顔をじろじろと見た。よく見ると、いつもあった左頬のほくろがない。化粧で隠れるくらいの大きさではないはずだった。
「……あんた。姉貴だろ。双子の」
「……何言ってるの? 私は
「いくら姉妹だからって嘘は許さないぞ」
辰也は、彼女の頬をぐぃーんと伸ばした。徐々に赤く腫れていく。
「な、な、痛いぃい。なんでわかったの? 顔と体は全部一緒でしょ」
「いーや、双子でも俺はすぐわかるんだ。美羽は今どこにいるんだ?」
「はい? 来るわけないわよ。そもそも、美羽なんて子は、存在しないんだから」
赤く腫れた頬のまま怖い顔をして、こちらを見る。
―――白い天井が見えた。夢だったらしい。スマホを開いて、電話帳を見る。彼女の名前を確認した。今まで美羽と話した内容を思い出す。双子の姉妹なんていた記憶はない。突然、スマホに着信が鳴った。登録した覚えのない「美來」の名前が表示された。これは一体誰なんだろうと辰也はごくりと喉を鳴らして、恐る恐るスワイプした。
「もしもし……」
『あれ、辰也ぁ。何してるの? 今日、待ち合わせって11時で合ってたかな』
「え、あ、嘘。まだ、家なんだけど。約束してたっけ」
『約束したじゃん。私とデートするって』
「ちょっと待って、美羽だよね?」
『は? 誰と間違ってるのよ。美羽だよ』
辰也は、もう一度スマホ画面を確認した。名前登録はしっかりと『美羽』と書いていた。さっきの表示画面は見間違いだったのか。不思議だった。待ち合わせだと言っていた駅前の時計台に着いた。どこ探しても誰もいなかった。駅舎の影の方で、双子姉妹が不敵な笑みを浮かべていた。
辰也の全く知らない双子姉妹だ。交際していた美羽はこの世に存在していない人だったかもしれない。