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第32話 不思議な鳥居

「誰もいないの? ……おかあさん!」


 学校帰りのバス停。いつも迎えに来るはずのおかあさんがいない。家までは歩きで20分かかる。後ろを振り返るとバスの運転手さんは僕のことを気にせずにすぐに行ってしまった。曲がり角をすーっとバスは走っていく。ひとりぼっちの僕を気にもかけない。辺りを見渡しても誰もいない。車もない。あるのは駐車場だけ。吹く風が冷たかった。ぶるっと身震いする。


 すると、遠くの方で鐘の音が聞こえた。こんな音したことない。どこから聞こえるのかと鐘の音が大きくなる方に向かう。体は吸い寄せられるように鐘の音も大きくなる。いつも歩いて帰るのは嫌だと思って、ずっと立って待っているのを今日は、不思議と歩きたくなる。でも、こっちの方向は帰るのとは逆方向だ。それでも僕は歩き続ける。駐車場におかあさんの車が来てるとも知らずに。


ガサガサと葉っぱの音がする。足元にはどんぐりが落ちていた。春だというのになんでここに落ちているのかわからない。桜の花びらは舞い散って緑の葉っぱになっていた。ここだけ秋と春が混ざっている。


「誰かいますか?」

 不意にそう言いたくなった。


『こっちだよぉ』


 かすれた声が聞こえてきた。知らない声だった。僕は、ぼんやりしながら声のする方に向かう。そこには、小さな狐の置きものと神社の祠があった。ものすごく小さい。鳥居も小人が通るんじゃないかってくらい小さかった。


「わぁ、かわいい」


 僕はおもちゃのようだと気になって、石の通路に沿って進んでいくと体がどんどん小さくなって、鳥居と同じ大きさになってしまった。


「あれ、なんでだろう?」


『こっちだよー』


 またさっきと同じ声がした。返事もせずにずんずん前と進む。ガサガサと葉を踏む足音が迫ってきた。


俊斗よしと!! どこに行ったのー? 迎えに来たよーー」


 大声で叫ぶおかあさんの声がした。ハッと我に返って元来た道を引き返した。さっきまで鳥居と同じ大きさだった僕は、なぜかボンッと瞬間移動してバス停の前にいた。尻もちをついて、痛かった。


「俊斗!? あれ、今までどこにいたの?」


「おかあさん! おかあさん、どこにいたのさ! 探してたんだよ」


「ごめんごめん。スーパーで買い物してたら遅くなっちゃった」


「もう! 僕の分のおやつも、もちろんあるよね?」


「当たり前じゃん」


 僕はおかあさんの手をしっかりと握って車に乗って帰った。車の窓から来た道を覗くとさっきまであった鳥居は、どこにもなかった。

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