朝起きて、小鳥のさえずりが鳴いていた。
自分の目を疑った。ベッドの脇に自分そっくりの人間が現れた。着ている服も寝ぐせも全く一緒。なんで、同じ人がいるのだろうか。体を動かすと鏡のように動く。
「あ……」
隣で寝ていた彼女が寝返りを打って、声を出したが、起きなかった。
「……セーフ」
今日は、休日で朝はゆっくり寝かしてあげたい。起こさないようにそっとベッドから離れると、そっくりな自分は、何故か鏡のようにならず、ベッドに横になり始めた。
「おい!!」
『は?』
返事をするもう一人の自分。
「なんで、寝るんだよ」
『お前はそう思ってる』
「俺は、起きたいんだ。トイレに行かないと!」
『あ、そう。行っておいで』
透けて見えるもう一人の自分。トイレに行かずにふとんに入る。なんだかイラッとしてしまう。なんでイライラしてしまうのか。でも、トイレに行きたい。用を足して、戻ると、ベッドに寝ていたはずの僕は、いない。気になって辺りを見渡した。台所のまな板と向き合っていた。
『腹減った』
「確かに……」
自分は自分のことをわかってると納得する。冷蔵庫の中から卵を取り出す。もう一人は炊飯器を覗く。
『空っぽだ』
「げ、まさか。ご飯炊くの忘れてた。仕方ない。パンにしよう」
『僕はご飯がいい』
「どうぞ、ご勝手に」
そう言って、僕は、冷蔵庫からバターを取り出し、棚に置いていた食パン袋から厚切りのを取り出した。もう一人の僕は透明人間のようなもの。ご飯を炊きたくても炊けないらしい。
「仕方ないな……」
僕はもう一人の自分のためにご飯を炊いた。さらに食パンでフレンチトーストを作る。2つのメニューを作った。
「あれ、おはよう」
寝ていた彼女が起きてきた。さっきまでいた”僕”は消えていなくなった。
「あ、うん。おはよう」
「珍しいね。朝ごはん、用意してくれたの? なるほど。どっちでも選べるようにご飯とパン。どっちのメニューもあるね」
「……うん、まぁ。そんなところかな。今、コーヒー淹れるから一緒に食べよう」
「ありがとう」
いつも彼女が朝ごはんを作ってくれていた。無意識にご飯の準備をしていた。本当はもう一人の”僕”じゃなくて、彼女の希望だったのかもしれない。2人で穏やかにまったりとした朝を迎えたのは初めてだったかもしれない。
「このフレンチトースト美味しいね」
「そう? よかった。また作るよ」
いちごジャムを乗せたとトーストに笑顔がこぼれた。不思議な時間を過ごした朝だった。