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第36話 キッチンショータイム

「レディース&ジェントルマン! お待たせいたしました。今宵もショータイムをご覧あれぇーーーー♪」


 モーニングの黒スーツに身に纏い、ステッキを持った包丁さん。まな板の上で軽く、ダンスを披露する。冷蔵庫の扉が自動で開いて、次々に食材たちが踊りながら、まな板というステージに登場する。


「まず最初に参りましたのは、脂がたっぷり美味しい自然豊かな場所で育った鳥もも肉さんの登場です!」


 白いパックに入った鳥もも肉さんが、綺麗な白いドレス(鳥皮の部分)を見に纏って、くるんとダンスをする。ジャンプした瞬間に包丁さんとダンスしながら、一口サイズに分裂して、あちこちにちらばり、たっぷりの水とかつおだしパックが入った鍋にポタンポタンと次々と入って行った。鳥もも肉さんのシンクロナイズドスイミングが鍋の中で始まった。鼻をふさぐフックも忘れない。


「次は~、オレンジ色の人参さんです! どうぞ」


 くるんとシルクハットをかぶった包丁さんは、ムーンウォークをして紹介する。とんとんとんと人参さんが乱切りで飛んでいく。まな板に落ちた瞬間にコマのように回転した。するんと滑り台まな板から鍋へ移動する。鶏もも肉さんとともにシンクロして沈んだ。


「続いては~、ごぼうさんとれんこんさんのダンスユニゾンです。張り切ってどうぞ」


 細長いごぼうさんと穴の開いたれんこんが、冷蔵庫からジャンプして現れた。次々とピューラーで皮がむかれると、包丁さんが華麗なブレイクダンスで小さく刻まれていく。回転しながら、鍋へ入るとすぐに中にいる鶏もも肉さんと人参さんが一緒になってシンクロする。みんな鼻フックをしながら綺麗にそろっていた。


「さてさて、続いては、しいたけさんと、こんにゃくさんの登場だ。お2人のコンビネーションは大注目です」


――――「お母さん、何やってるの?」

 5歳の息子が話しかけてくる。

「え、何って、お料理だよ。今ね、筑前煮を作っていたんだけど……。あ! 先にサラダ油で炒めると忘れていた! 水から煮てしまったわ。まぁ、いいか。美味しくできたら、万々歳ね」


 へらを握りしめ、鍋を揺り動かす。しょうゆと砂糖、みりん、お酒などの調味料を鍋に入れた。


「ねぇ、ねぇ。さっきのショータイムってどうなったの?」


「……もうやらないよぉ」


 恥ずかしくなって、鼻歌を歌う。


「気になるじゃん!」


 母は、こうやってお料理を楽しくさせているんだとわかった息子だった。


「お父さんも聞きたいぞ」


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