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第37話 奇跡の乗り越え

 硬い壁にぶつかった。無意識だった。たかが壁、されど壁。いい大人がこんな壁にぶつかるなんて、情けない。泣きたくなる。どうしてここに壁があるんだと責める人がいる。そう、それは自分。誰かが言っていた。モノや人に怒る人は、それに期待している。モノに動かないでほしいって思っているのか。いや、そもそも動かない。自分からぶつかりに行って八つ当たりするのは何かがおかしい。額にたんこぶを作る。そのこぶは何の意味があるというのか。けがの勲章か。


 人生である壁もどこか一緒。人のせいにして、ぶつかったことを責めるのか。それとも、自分が悪いと責めるのか。次々とミッションがある世の中で責める時間があるというのか。壁に説教している暇があったら先に進んで楽しいことを考えた方が人生楽しいというもの。次の世界を見たらいい。そう、それは新たなチート機能。どんな壁を壊せる軍手なんか持ってしまったら、どんなに強烈な壁でもぶっ壊すことができる。迷わず前にすすめる。ただ、デメリットがある。壊した残骸をどうするか。誰が片付けるというのか。それをまた責めるのか。いや、すぐに後ろで元に戻るチート機能の魔法を使ってしまえばいいだろう。誰も自分も責めることもない。さて、こんな世界が本当にあるのだろうか。


モノを落として壊したらすぐ直る。


人を傷つけて、傷つけた心をすぐ治る魔法。


そんなものがあったら、人生は楽なものだ。


でも、幸せって、ずっとは続かない。

チートを使いすぎるとつまらないものなんだ。


辛い経験して、苦しい思い、嫌な思いして、のし上がって、転んでも気にせず立ちあがって、生き続けた中で見つけるのが幸せだ。


平坦な時間というものは退屈で暇つぶしを見つける長い長い時間だ。

楽しい時間は凄く短く感じる。


ずっとじゃない一瞬でいいからチートが使える技術があったらいいなと思うのはいけないのだろうか。


楽を探す旅くらいは出かけてみたいものだ。


「優斗~!!」


 友達が1人もできたこともない。学校で話したこともないクラスメイトが大きな声で呼んでいる。奇跡が起きた。


「へ?」


「落とし物だぞ」


「え?」


 バックに穴が開いていた。さらに、筆箱のファスナーも開いていた。ペンが何本も校門に落ちていたらしい。俺は律儀に名前を書いていた。


「あ、ありがとう」


 チートでもなんでもない。モノが壊れただけだ。


 俺は初めて友達ができた。高い高い壁をするりと乗り越えられた。

 バックの穴で。

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