「あ、カワウソが!!」
夜寝る前にママとベッドで一緒に絵本を読んでいた。いつも隣にいるおばあちゃんに水族館で買ってもらったカワウソのぬいぐるみがふとんで押し込んでしまい、ベッドの下に落ちてしまった。
「ほら、かわいそうだから拾ってあげて」
「うん」
僕は慌ててお気に入りのカワウソを拾った。
「危ない、大丈夫。拾ったよ」
僕の大事なカワウソをぎゅっと抱きしめた。
「もう、大事なら落としちゃだめよ。どうする? 夢の中に出てきたら?」
「出てこないよ。大事にしてるもん。毎日一緒に寝てるんだから」
「ふーん。ほら、絵本読むよ」
「うん」
ママは疑いの目で見てきたが、僕はぎゅっとさっきよりも強くカワウソを抱きしめた。3冊の絵本を読み終わって眠くなってあくびをした。
「そろそろ寝ようか。おやすみ」
「うん。おやすみ」
ママが電気を消した。真っ暗な部屋の中、僕はカワウソを抱きしめて眠りについた。ずっとずっと一緒だ。そう、夢の中でも
―――「ほら、こっちだよ」
海の砂浜で僕は走っていた。僕と一緒に遊んでいるのは僕と同じくらいの大きさのカワウソくん。ぬいぐるみはそこまで大きくなかった。水をかけ合いっこして追いかけられた。僕は追いかけるより逃げるのが好きだ。カワウソくんは笑いながら、二足歩行で走ってくる。あれ、これは小学校で一緒によく遊ぶまーくんと似てる気がする。
「ちょっと、待ってよ。早いよ」
「いやいや、鬼ごっこなんだから」
砂浜で遊んでいたはずが、いつの間にか学校の校庭で鬼ごっこしている。相手はクラスメイトのまーくんではない。いつも一緒のカワウソくんだ。人間の言葉を話している。追い詰められて、背中をタッチされた瞬間、カワウソくんは言った。
「なんで、ベッドから落とすんだよ!」
怖い顔をして話すカワウソくんに僕は身震いした。
「ぎゃー」
思わず、夢の中で叫んでいる。汗をたっぷりかいて目を覚ました。隣にいたカワウソのぬいぐるみがいない。抱きしめて寝ていた。必死で辺りを探したら、ベッドの下にまた落ちていた。
「あ、あった」
「なんで、何度も落とすんだよ!! 痛いだろ」
まさかのカワウソのぬいぐるみが喋った。僕は拾おうとしたが、怖くなって拾うのをやめた。これは夢だと思ってふとんにもぐり、目をぎゅっとつぶった。
いつの間にか眠っていた。朝になり、窓から光が差し込んだ。目を覚ますと、手の中にカワウソがあった。
「いつもここにいさせてよ」
背筋が凍った。