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第41話 忙しい朝に

 「あー。具合悪いなぁ〜……」


 朝起きた瞬間、本当は何ともない。熱もない。頭も痛くない。でも何となく、ぼんやりと学校に行きたくないと思ってしまった。


「ほら、朝だよ。起きなさい」

 母が声をかけてきた。いつもその一言で起きていたが、起きようともしなかった。


「え、まさか。今日、休むの?」

「うん、ちょっと調子悪いから」

「あ、そう。学校に電話しておくね。ゆっくり休みな」

 母は、止めることもなく、あっさりと学校に休みの連絡を入れた。クラスメイトに登校拒否の子がいる話をしても気にもしない母。しっかりと自分のことを見ててくれると思うと何だかほっとする。今日、しっかりと休んだら、明日は行こうかな。ふーっとため息をついて、うつ伏せになる。ベッドの脇に置いていた眼鏡をかけた。休むと決意して、何回も読んでも飽きない漫画本を読むことにした。

 眼鏡をかけると違和感を感じた。好きな漫画本が読めない。眼鏡の向こう側は学校の教室になっている。


「あれ。これ、どういうことだろう」

 気になって眼鏡をはずして、かけてを繰り返した。何度やっても眼鏡のレンズの向こう側は教室が見えた。気になってそのまま教室の様子を伺った。


「おはよう。昨日の宿題、全部解けた?」

「おはよう。算数のプリントのこと?」


 同級生の彩菜あやなが机の近くに寄ってきた。私は、ランドセルからプリントを取り出した。眼鏡の向こう側の私は、ものすごくお喋りだった。次から次へと面白可笑しく話す。これは私なのだろうか。語彙力が半端ない。私は、そんなお喋りじゃない。何だか変だ。もっと目を凝らした。すると、背中に弟の姿ぼんやりと見えた。私の体に弟のいつきが憑依していたようだ。あいつは確かにお喋りだ。こちらを見て、舌をペロッと出している。


(嘘でしょう?! 私の体で何をする気だ!)


 ありえない行動に苛立ちが止まらない。檻の中に入ったライオンのごとく歯をむき出した。


「樹!!! ふざけるんじゃないわよ!」


 自分の声がエコーかかって響いていた―――


――――目を覚ますとベッドの上で、真っ白い天井が見えた。背中に汗がびっしょりだった。さっきまでのことがすべて夢だった。


「姉ちゃん、何してるのさ。早く起きろって」

「……あんた、夢に出てくるなって!」

「げ、本当?? 出演料ちょうだいよ!!」

「そんなのないわーー」

 寝起きが悪く、さらに不機嫌になった私は、樹の背中をパコパコたたいた。


「朝から暴れるな!」

「うっさいわ!」

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