黄色い歓声が響くライブ会場で、ドラムを叩く音が響き渡っていた。汗をかきながら、両手を挙げて観客はリズムに乗る。ボーカルがマイクを抱きしめて、歌い酔いしれる。ギターとベースはヘッドバンキングを繰り返す。約800名の会場は大盛り上がりだ。
会場を出た
「もう、最高だったね。『グランライム』またライブしてくれないかな」
「本当に。かいたことない汗いっぱいかいたよ。また来たいよね」
友人の
バックにはグランライムのキーホルダー。ペットボトルホルダーにたくさんのグッズで満たされていた。
「次は、チケットが前の方取れるといいよね」
「確かに。夢にでも出てきてほしい」
「ほんと、ほんと」
―――ライブ会場の近くのビジネスホテルに泊まることになった2人は、グランライムの話題で尽きなかった。夜寝る前に頭の中でライブ映像がよみがえり、シャワーをしててもご飯を食べてても鼻歌が止まらない。ベッドの上にジャンプして、仰向けに寝た。ちょうどよい身体の疲れで熟睡かと思ったら、部屋の中で突然グランライムが演奏し始めた。
「え?! 嘘、マジで? どういうこと」
「私たちだけの特別演奏ってことかな?」
「最高すぎて死にそうなんだけど!」
ベッドから跳ね起きて、両手をお互いに握って何度もジャンプする。ペンライトを持って、ライブさながら、盛り上がる。興奮のあまり、グランライムの曲をオールナイトで楽しんだ。
―――朝日の光がカーテンの隙間から差し込んだ。むにゃむにゃとベッドの上でお腹をポリポリとかきながら、お互いの足を絡めて寝ている2人がいた。それでも部屋の中でグランライムの演奏は続いていた。
これは本人たちではない。
ライブに行った2人の頭の中の映像が映し出された。夢でもない。
通信会社にマイクロチップを体に埋め込む契約をしたことによる誤作動で、勝手に録画されたものが部屋に映し出されたのだ。寝ても醒めてもずっとライブ映像が部屋の中に映る。
眠らないライブが永遠に演奏されていた。未来の技術が2人の目の前に反映された。
「もう、大満足!」
大声で寝言を言いながら、理亜乃は、寝返りを打った。
ご飯を食べなくても胸いっぱいになる不思議な体験だった。咲良は爆睡して理亜乃の声を気にすることはなかった。