「お母さん! 優実ちゃんとライン交換できた」
小学生の長女の亜弥菜は、持ち始めたスマホ画面を母に見せた。スマホの所持年齢は時代とともに低年齢化する。小学校での授業でもタブレットを使うこともある。スマホは画面も小さいもので操作方法も違うが、両親や教師も持ち歩く。学校のお便りでさえもスマホのアプリで送信する。所持するのが当たり前の世の中で、子供も自動的に持つことになるだろう。ただ、問題がたくさんある気がすると考えるのは亜弥菜の母だ。
クレジットカード情報を登録しておくと、ゲームをした時に親のチェック無しに課金できてしまう機能がある。ニュースを見ると何百万も課金してしまったという子供もいるらしい。母は、ひやひやしながら、受け入れようと思った。
翌日、ライン交換をしたという優実ちゃんが、学校で無視してきたという。聞いても理由を教えてくれない。優美ちゃんだけじゃなく、他の女子も話を聞いてくれないらしい。亜弥菜は泣きながら、学校に行くことはできなくなった。スマホを持たせたことが原因だと母は推理する。
ベッドで泣き崩れる亜弥菜に母が聞く。
「亜弥菜、ライン交換したあと、何かあった?」
「優美ちゃんに可愛いスタンプ送ったよぉ。あとね、朝のおはようスタンプ送られてたみたいなんだけど、既読できなかったの。そしたら、学校行ったら怒ってた」
「あーー、原因はそこだよね。既読スルーのイライラか。幼いから寛容に対応できないんだよね。優美ちゃんのお母さんって結構放置タイプだからなぁ。集団いじめに発生するとは。学校はスマホ持ち込み許してないからねぇ」
母は、テーブルに腕を組んで、顔を伏した。これが全部リセットしてスマホを持つ前に戻ればいいのにと思った。
―――いつの間にか眠ってしまった母は、起きた時には朝になっていた。夕方からずっと寝てしまったと勘違いして、慌てた。
「亜弥菜~! 朝だよ。学校行こう」
「はーい」
ご機嫌の亜弥菜が二階の部屋から駆けおりてきた。ランドセルを階段の上に置いた。
「亜弥菜、大丈夫?」
「え、何が? お母さん、今日、学校の校外学習で車工場の見学だよ。楽しみ!」
校外学習はスマホを渡す3日前の行事だ。母は、胸をなでおろした。
「あ、うん。そうなんだ。楽しんでおいでね。んじゃ、朝ごはんを食べよう」
突然にご機嫌になる母の様子を亜弥菜は不思議がる。
「どうしたの。お母さん」
「ううん。なんでもないよ」
母の顔は緩くなった。