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第7話 改心したのか?


カメラを持った男は、突然の呼びかけにびくっとして、カメラを落としそうになった。

男が勢いよく振り返ると、同じくマスクとキャップを被った若い女の子が、手にもカメラを持って立っていた。


「同業?」男は眉をひそめ、警戒した口調で言う。


女の子はニッと笑い、

「そうだよ、兄ちゃん、ちょっとだけここに隠れさせてくれない?」

と頼む。


「無理だ。場所が狭い。他を探せ。」男はきっぱりと断った。


女の子は数秒間男をじっと見つめ、急に声を潜めて言った。

「もしかして、あんたも早乙女に頼まれたの?」


男は一瞬驚き、

「早乙女遥?あいつもお前に声かけたのか?どういうことだ、二人も呼んで話題作りかよ?」


女の子はそのまましゃがみ込み、目を輝かせて言った。

「昨日モールで撮った写真って、君が撮ったんでしょ?惜しかったな、私途中で帰っちゃって!」


男はさらに驚いた。

「昨日もいたのか?早乙女は一体何がしたいんだ?」

独占ニュースが共有になれば、価値が大幅に下がる。


女の子は目尻をくいっと上げて微笑む。

「まあどうでもいいよ、金がもらえれば。それで、今日いくらもらった?」


男は怒りに任せて、つい口を滑らせた。

「三十万だ。」

これはまだ前金に過ぎない。


女の子は目を大きく見開いてから、平然と「ふーん」と応じた。


男はその反応を鋭く捉え、目を細めて聞く。

「ふーんって何だ?お前はいくらもらった?」


女の子は軽く笑った。

「ま、私の方が多いよ。君、その値段じゃダメだね。」


その言葉が男のプライドを突き刺し、彼は立ち上がった。

「早乙女遥に、俺一人じゃダメって言われたのか?」


女の子は肩をすくめる。

「私は百万円だよ。」


その大きな差に男は屈辱感を覚え、ちょうど早乙女遥が芸能人用ワゴン車から降りてくるのを目にして、怒りに任せて彼女の方へ歩み寄った。


美香は任務を完了し、スマホを取り出して直樹にメッセージを送った。

【すぐ入口まで来て、サプライズがあるよ。】


この高級レストランの入口には車がほとんど止まっていない。


早乙女遥は車を降りて周囲を見渡し、満足げに口元を上げた。貸し切りの雰囲気は確かにいい。


彼女は優雅な足取りで進み、ハイヒールが小気味よい音を響かせる。夜風が長い髪を揺らし、彼女は顎を少し上げて、パパラッチが最高の角度で撮れるように意識した。


昨日は全くの取り越し苦労だった。あの人は実は直樹のお姉さんだったのだ。でも、彼は今まで姉がいるなんて一度も話してくれなかったな。


そのとき、一つの影が突然前に飛び出し、彼女を驚かせた。

「誰なの、あなた?」


男は怒り心頭でカメラをかざして言う。

「俺は今日お前が呼んだパパラッチだ!なんで俺には三十万で、他のやつには百万なんだよ?」


早乙女遥は細い眉をひそめて、

「何言ってるの?私のマネージャーが二人も呼ぶわけないでしょ!」

ときっぱり否定した。


「まだ認めないのか?さっきあの女がそこに……あれ、どこ行った?」

男が振り返ると、植え込みの裏はすでに空っぽだった。


だが、レストランの入口には、すでに一人の冷ややかな雰囲気の高い男が立っていた。


早乙女の心臓がドキリと跳ね、男をにらみつけてからすぐに笑顔に切り替え、素早く直樹の方へ駆け寄った。

「直樹くん、どうして先に出てきたの?」


直樹は顔を曇らせ、全身から冷たいオーラを放っている。


早乙女が近づくだけで強い圧迫感を感じ、柔らかい声で説明した。

「直樹くん、さっきの人は道を聞いてきただけで、私知らない人よ。」


直樹は美香からのメッセージを見て出てきたところで、ちょうど早乙女とキャップ姿の男が話しているのを目撃した。その格好、パパラッチに間違いない。てっきり張り付いてるのかと思ったら、まさか彼女自身が呼んでいたとは。


彼は沈黙し、冷たい視線を早乙女遥に向けた。手首の数珠がライトの下で淡い光を放っている。


早乙女遥は頭皮がぞわっとした。

「直樹くん、私……」

直樹の様子からして、おそらく会話を聞かれていた。

彼女は瞬時に頭を回転させ、瞳に涙を浮かべてうるうると直樹を見つめた。

「直樹くん、認める。パパラッチは私が頼んだの。ただちょっと注目度を上げたかっただけ、そうすればもっといい台本がもらえるから……利用しちゃってごめんね。」

自分を仕事熱心な女の子としてアピールする。


直樹のあたりの空気が少し和らいだ。


彼が口を開こうとしたとき、携帯が鳴った。お姉さんからだった。

【バカね、彼女はただ瀬戸達也を怒らせたかっただけ!】


お姉さん、まだ近くにいるのか?直樹は周囲を見回したが、誰も見当たらない。ふと顔を上げると、入口の木の上に小さな顔が覗いているのに気づいた。


直樹は口元を引きつらせ、下を向いて返信した。

【お姉さん、そこまでやらなくても……】


木の上の美香は目を白黒させた。早乙女は確かに美しいし、白いドレスで儚げで、守ってあげたくなるタイプだ。


直樹がまた送る。【姉さん、なんでここにいるの?】


美香はもちろんわざわざ来たとは言えず、【通りすがりだよ。じゃあね、バイバイ!】


恋愛一筋の弟は手に負えない、美香は戦略的撤退を決意。


直樹は眉をひそめた。【どこ行くの?一緒にご飯食べようよ。】


美香:【邪魔者になるだけでしょ?用事あるし。】


直樹:【何の用?】


美香:【昔の家、ちょっと見てくる。もう誰のものか分かったから、売る気があるか聞いてみる。】


直樹:【なら俺も一緒に行く。】


早乙女は直樹を信じさせようと涙を絞り出していたが、直樹が全く自分を見ず、ずっとスマホをいじっていることに気づいた!


スマホの向こうの相手は誰?彼女が覗き込むと、相手のアイコンには「地獄から復活したにゃん」と書かれている。早乙女は呆れて涙を拭き、再び優しく呼びかけた。

「直樹くん……」


直樹は顔を上げた。

「分かった、今日はこれで。俺、用があるから先に帰る。」


早乙女は目を見開き、声を一気に上げた。

「え?また用事?!」

すぐに自分の失態に気付き、慌てて声を和らげる。

「その……直樹くん、夕飯食べないの?体に悪いよ。」


直樹はその気遣いを読み取って、冷たい顔に一瞬だけ微笑みを浮かべた。

「お腹空いてるなら食べていいよ。俺はまだ大丈夫。」

お姉さんの睡眠問題を早急に解決しなければ。彼はそう思いながら、きっぱりと歩き去る。


早乙女はその場に固まったまま。近くのパパラッチも呆然と見ていた。

以前は藤原直樹が早乙女遥に夢中だったのに、今やこの関東の貴公子は急に性格が変わったのか?


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