目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第12話 キラキラ


映画の宣伝期間が終わり、早乙女は最近少し暇になっていた。


日常の写真を一組撮ってインスタにアップしたあと、彼女はマネージャーの車に座り込んでスマホを開いた。


新しいメッセージがいくつかあったが、直樹からのものはなかった。


昨夜、彼はあんなふうに去っていった。説明すらなかった。


彼女はとても腹が立っていたが、自分からは聞かなかった。どうせ彼が謝りに来るだろうと待っていた。


結果、彼はまるで消えてしまったかのようだった。


どういうこと?直樹の気持ちはもう自分に向いてないの?


彼はこの数日、いったい何をしているのだろう?


社長として、直樹が忙しいことは知っている。


だけど、以前はどんなに忙しくても、毎日十数通のメッセージを送ってくれたし、自分に何かあれば必ず真っ先に対応してくれた。


早乙女遥はスマホをぎゅっと握りしめ、深呼吸して直樹のチャット画面を開く。


【直樹くん、今夜空いてる?ご飯ご馳走するよ。】


これが彼女にとって初めての積極的なお誘いだ。きっと彼は断らないはず。


その時、スマホに新しいメッセージが届いた。それは瀬戸からだった。


【遥、今夜一緒にご飯どう?君の一番好きなレストラン予約したよ。】


早乙女遥は口元をほんの少し上げたが、返信するつもりはなかった。彼には、まだ自分が怒っていることを分からせなければ。


聞き慣れた着信音が鳴る。ちょうど車を停め終えた直樹がスマホを開いた。


彼は眉をひそめて返信した。


【今夜は無理だよ。姉さんとご飯行くから。】


早乙女遥はすぐに返した。


【大丈夫だよ、お姉さんも一緒にどう?私がご馳走する。】


直樹はちょうど助手席から降りてきた美香を見て、声をかけるか迷った。姉さんは早乙女遥に誤解を持っているし、会わせてみれば印象が変わるかもしれない?


ここはある高級デパートの地下駐車場。直樹が話そうとしたとき、美香がふと顔を上げ、大きな広告看板を見ていた。


看板には、七三分けでポケットに手をつっこんで、歯を見せて笑う男が写っていた。


直樹の心が沈む。それは瀬戸だった!彼がこのファッションブランドのイメージキャラクターで、駐車場にまで広告が出ている。


直樹は美香の眉がひそめられるのを見て、表情が曇った。


やっぱりやめよう。姉さんはちょうど失恋したばかりだし、早乙女遥を呼んだら余計に刺激してしまう。


しかも早乙女遥は瀬戸達也と熱愛報道が出たこともある。嘘だったとしても、やはり良くない。


彼は美香に何も言わず、スマホを見て打ち込んだ。


【また今度ね。今度は俺がご馳走するよ。】


返信を受け取った早乙女遥の顔色が変わった。直樹が、彼女からの誘いを断ったのだ!


彼女は歯を食いしばった。


本当に姉なの?何がダメなの?今すぐそのお姉さんに会ってやりたい!


「お姉さん、レストランのエレベーターあっちだよ。」

直樹は美香の腕を軽く引き、広告から目を離させた。


美香は視線を戻し、「うん」と答えた。


十一年が過ぎ、瀬戸達也も大きく変わった。脂ぎっていて、髪の量も減った。


美香は当時、彼と付き合うことを承諾したのを少し後悔していた。一日も恋愛らしいこともなく、むしろ黒歴史ができたような気分だ。


弟以外に、このことを覚えている人はいないはず。


直樹は黙々と彼女のために肉を焼きながら、顔色も良くなかった。


やっぱりお姉さんは、まだ瀬戸達也が好きなんだ!


気をそらせようとして、直樹は尋ねた。


「お姉さん、服部様の性癖聞いた?」


直樹は思う。桜川市で服部遼介にストレートにこの質問ができる人間は、片手で数えるほどだ。少なくとも自分には無理だ。


美香はサンチュで包んだ豚バラをいくつか食べてから言った。


「聞いた。女の人が好きだって。」


直樹は驚いた。


「女?でも桜川市には彼を追いかける美女が山ほどいるのに、全然興味なさそうじゃない。」


美香は今度は牛肉を包みながら答えた。


「運命の人に出会ってないって言ってた。」


直樹は牛タンを返しながら言った。


「まあ、彼のレベルだったら、相手への条件も高くなるよな。お姉さん、服部さんのことどう思う?」


美香は眉をひそめ、直樹の頭をぺしりと叩いた。


「何それ。私に彼を追わせたいの?ふざけないで。」


直樹はもちろんお姉さんに恋愛してほしくないが、瀬戸が好きなのは絶対やめるべきだ。


昔の恋を忘れる一番の方法は、新しい恋を始めること。


服部遼介は瀬戸より何倍もマシだ。少なくとも誠実な紳士。


「いや、無理にじゃなくてさ、彼のいいところを探してみてもいいんじゃないかと思って……」とにかく瀬戸から意識をそらさせたい。


「そんな暇ない。」美香は首を振った。

「私は純也を探すし、それに高校に戻って大学受験するつもり。」


十一年経って、東京大学はもう昔の成績を認めてくれないだろう。


高校でもう一年受験勉強してもいいし、ちょうど純也を見つけて、ちゃんとした道に戻してやりたい。


直樹は表情を曇らせた。お姉さんは誰かを好きになる気がなくて、忙しさで自分を誤魔化そうとしている。


「大学受験は大変だよ。家には何でも揃ってるし、もう勉強しなくてもいいじゃん。」彼は焼きあがった牛タンを美香に渡した。


「やるよ。」美香はきっぱりと言った。「私は自分の人生計画がある。」

たとえここが小説の世界でも、自分たちにとっては本物の人生だ。


服部遼介があんなにすごいのに、自分だけ弟のスネをかじるわけにはいかない。


当時は東大経済学部に志望していたけど、今はもう一度考え直すつもり。


人は時代の産物だ。時代が変われば計画も修正しなきゃいけない。


それは急がない、まず純也がどの学校にいるか見つけないと。


【主人公の弟は桜川第一高校にいるが、それが自分の弟もそこにいるとは限らない。】


ヤンキーの喧嘩は校内外問わない。


明日は桜川第一高校を見に行こう。


「どこの高校に行きたい?相談してくれれば手続きするよ。」直樹はそれ以上説得しなかった。お姉さんが決めたことは、誰にも変えられない。


たぶん誤魔化すことが目的じゃなくて、人生を自分の手に取り戻そうとしているのだ。


まだ十八歳、これから先は長い。


「決まったらまた連絡する。」美香は牛タンを食べながら、満足そうに目を細めた。


「夜は早く休んで。明日は竹内に迎えに行かせるから。」車がマンションの前に止まり、直樹が言った。


「分かった。」美香は車を降り、袋いっぱいのお菓子を抱えた。


「それと……」直樹がまた言う。「俺の話、考えてみてさ。服部遼介のいいところを探してみて。」忙しさと意識の転換、二重の作戦で行こう。


美香は直樹を睨んだ。


「関東の貴公子様、ちょっとうるさいよ。」


直樹:「……」


彼女は服部遼介にメッセージを送った。


【帰りました。ドア開けてください。】


もうすぐ十一時だ。服部遼介はもう寝ているかもしれない。一分待っても返信がなく、美香は音声通話をかけた。


呼び出し音がしばらく鳴ってから、やっと繋がった。向こうの声は少し枯れていた。


「ひかり。」


その声には妙な色気があったが、美香は気にせず、むしろ驚いた。


「どうして私のニックネームを知ってるの?」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?