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第14話 母校への思いは深い


竹内から「もう校門前に着いたよ」とメッセージが届いた。


美香はお椀をキッチンに戻し、服部遼介に手を振った。


「行ってきます、バイバイ!」


そして執事にも、


「森村執事、バイバイ!」


少女の笑顔は明るく、声も澄んでいた。


森村は一瞬きょとんとしたが、すぐに微笑んだ。


「バイバイ、気をつけてね。」


この子は本当に人に好かれるタイプだな。


車に乗り込むと、竹内が弁当箱を差し出してきた。


「藤原社長が持たせてくれた朝食です。お腹が空いたら車の中で食べて。」


美香は首を振った。「もう食べたよ。」


竹内は驚いて尋ねる。「どこで?服部様とご一緒にですか?」


桜川市では、服部遼介を敬愛する多くの人が彼を「服部様」と呼ぶ。


彼はトップクラスの実力者であるだけでなく、慈善事業にも熱心だ。毎年全国一位の寄付額を誇り、貧しい学生の支援や孤児院の修繕も行い、自身のチャリティー基金まで持っている。直樹も毎年その基金に資金を拠出している。


「うん、服部遼介が自分で作ったの。すごく美味しかったよ。」


美香は惜しみなく褒めた。


竹内の冷たい表情に、ふと微かな笑みが浮かぶ。


「もし昔、桜川第一高校のクラスメイトたちが知ったらどう思うだろうね。かつて学年一位と二位だった『犬猿の仲』が今では同じ屋根の下にいて、しかも二位の方が一位のために朝食まで作ってるなんて、きっとびっくりするよ。」


本当に、縁というのは不思議だ。


美香は首を振った。


「別に私のために作ったわけじゃなくて、ついでだよ。」


そして、ちょっと好奇心を示して尋ねた。


「葵さん、私と服部のこと知ってるの?」


竹内は片手でハンドルを握りながら答えた。


「もちろん。当時あなたたち二人は学校で有名だったから。」


美香はその言葉に溜息をつき、シートにもたれかかった。やや沈んだ口調で呟く。


「今じゃ彼だけが有名人で、私は違う。ただのNPC扱いだよ。」


この小説の作者は本当に自分に厳しいな、と心の中で思う。


明るい少女の表情が曇ったのを見て、竹内は思わず優しく彼女の頭を撫でた。


「焦らないで、美香もまた伝説になるさ。」


十一年前の世界からやってきた時点で、すでに伝説と言える——それは昨夜直樹が教えてくれたことで、その時竹内はとても驚いた。


直樹は今日、美香を桜川第一高校に連れて行くよう竹内に頼んだ。美香が再び学校に通うことになったから、もう隠さなくていいと判断したのだ。


美香は頷いて、拳を握る。


「がんばるぞ!美香!」


竹内は思わず笑い声を漏らす。


「服部様がまだあなたをライバルだと思ってるかどうかはわからないけど、あなたは彼のことをよく覚えてるみたいだね。」


美香は肩をすくめて答える。


「高校時代、彼は私の学年トップの座を脅かせる唯一の存在だった。転校してくる前はずっと私が断トツ一位だったから、ライバル視せずにはいられなかったよ。今はもう実力差が大きいけど、でも人間は夢を持つものだよね。」


竹内はますます美香のことが好きになった。


彼女は桜川市で過去二十年間ただ一人の東大合格者であり、内面の強さもあって、自分を決して過小評価しない。


「私は美香ちゃんを信じてるよ。」


竹内の言葉は真剣そのものだった。


桜川第一高校の校門前は、今も変わらず並木道が続いている。


木漏れ日が葉の隙間からこぼれ、地面にまだらな光と影を落としている。


直樹がすでに学校側に連絡しており、美香と竹内はスムーズに中へ入ることができた。


十一年ぶりだったが、学校はそれほど大きく変わっていなかった。ただ、新しい校舎や体育館がいくつか増えていた。


竹内が説明する。


「あの校舎は全部、服部様の寄付で建てられたんだよ。ほぼ毎年一棟ずつ増えてるの。」


美香は手で日差しを遮りながら、新しい校舎を見上げる。すると壁に「桜坂」の文字が刻まれているのに気付いた。


「会社名義で寄付したんだ?母校への思いが強いんだね。」


美香は視線を外し、竹内に尋ねた。


「葵さん、瀬戸の弟、瀬戸青舟は何組?」


「A組だよ。学年トップクラスの成績で、常に三位以内に入ってる。」


「じゃあA組に行ってみよう。」


美香は、どうやって瀬戸青舟から純也への手がかりを見つければいいかわからなかったが、とにかく試してみるしかないと思った。


純也は行方不明になった後、養子となり名前も変わってしまった。もし元の名「藤原純也」のままだったら、すぐに調べられたのに。


桜川市には高校がたくさんあるので、一つずつ「君たちのリーダーを出せ」と聞いて回るわけにもいかない。


そもそも「番長」という概念自体、曖昧だった。美香が桜川第一高校にいた当時でさえ、誰が番長なのかわからなかった。


二人がA組の教室前に着くと、ちょうど休み時間のチャイムが鳴った。元気な男子生徒たちが教室から溢れ出てくる。


竹内は無意識に美香を自分の後ろにかばった。


彼女は25歳で、知的でクールな雰囲気を漂わせている。その彼女が、高校生にしか見えない美しい少女を連れて廊下に立っていたので、周囲から多くの視線を集めた。


だが美香は全く動じない。彼女にとって高校は、つい一ヶ月前まで通っていた場所に過ぎなかった。


美香は教室から出てきた生徒たちを見回し、直接尋ねた。


「瀬戸青舟くんはいる?ちょっと話がしたいんだけど。」


「ええっ、瀬戸に会いに来たの?」


「また他校の女子が告白に来たのか?この子、めっちゃ可愛いじゃん。瀬戸、モテルんだな!」


「瀬戸ー!女子が会いに来てるぞー!」


一人の男子生徒が教室の中に向かって叫んだ。


瀬戸青舟は本を読んでいて、顔も上げずに答える。


「帰れって言っといて、今忙しいから。」


声をかけた男子生徒は、美香に困ったように笑いかけた。


「彼、いつもああなんだ。気にしないで!僕が引っ張り出すから!」


あんな美人を無視するなんて、あり得ないだろ!


美香は竹内の後ろから出てきて言った。


「大丈夫、自分で行くよ。葵さん、ちょっと待ってて。」


竹内はうなずき、ちょうど電話がかかってきた。


美香はかつてA組の生徒だったが、今の教室は当時とは違っていた。


親切なぽっちゃり男子が中まで案内してくれる。


「あそこにいるよ。」


美香は瀬戸青舟の前の席の空席に座り、指の関節で机をトントンと叩いた。


「ねえ!」


瀬戸青舟はうんざりしたように顔を上げ、そして一瞬驚いた。


目の前の少女は、まるで陶器の人形のような可愛らしい顔立ちで、大きな瞳が澄んでいる。それに──どこか見覚えがある?


瀬戸青舟は、瀬戸達也にも少し似ているハンサムな少年だった。


美香は友好的に微笑みながら尋ねた。


「ちょっと聞きたいんだけど、最近、君とトラブルを起こしたやんちゃな生徒さんっていない? この学校でも、他校でもいいんだけど。」


こう聞くのが一番無難だ。


純也が瀬戸青舟を病院送りにしたということは、二人の間に何かトラブルがあったはずだ。


瀬戸青舟は何のことかわからない様子で、少し考えてから首を横に振る。


「いないよ。」


美香はさらに追及する。


「もう一度、よく思い出して?」


瀬戸青舟は真剣に記憶をたどった後、突然目を輝かせて言った。


「わかった! 君、誰に似てるかわかったよ!兄貴が高校時代付き合ってた彼女にそっくりだ!」


美香は呆れた。


「そんなこと聞いてるんじゃないよ!」


どんなに聞いても、瀬戸青舟は「最近トラブルはないし、人間関係も良好よ」としか答えなかった。


美香は少し頭を抱える。もしかして、まだその展開になっていないのかも?


「わかった、じゃあ連絡先を交換させて。もし誰かに絡まれたら、私に教えて。」


瀬戸青舟の連絡先をもらい、美香は教室を出た。


瀬戸青舟は彼女の後ろ姿を見ながら、携帯で写真を一枚撮り、兄に送った。


【兄貴、この子、あの高校時代の彼女にそっくりだよ!】


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