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第15話 特別な注目


竹内は通話を終えると、美香が教室から出てくるのを見かけた。


廊下には多くの生徒たちの視線が彼女に集中していた。


高いポニーテールの少女は、注目を浴びながらも平然としていて、髪がふわりと揺れ、その姿はひときわ堂々として眩しかった。


少しぽっちゃりした男子生徒が美香の後ろについてきて、顔を赤らめながらも勇気を振り絞って声をかけた。


「ねぇ、君はどこの学校?連絡先、交換できる?俺、山本健太って言うんだ」


周囲の生徒たちは驚いた表情を浮かべた。みんな、この女の子が瀬戸青舟を探しに来たのを知っているのに、こんなにストレートに…?


美香は最初、やんわり断ろうと考えていた。どうせもう会うこともないだろうし。


けれど、言葉を発する前に、山本健太がさらに近づいて小声で言った。


「俺、瀬戸青舟のこと気にしておくよ。誰かと揉めてたらすぐ教える!」


美香の目がぱっと輝いた。相手を利用するのはあまり良くないかもしれないが、向こうから提案してくれたのだし、後でお礼すればいい。


「いいよ」


彼女はスマホを取り出した。


山本健太は手が震えるほど興奮して、スマホを落としそうになった。


彼は今まで美香より綺麗な女の子を見たことがなかった。まるで絵から抜け出してきたみたいで、どうにも平静ではいられない。


美香が竹内のもとへ歩み寄ると、竹内が尋ねた。


「まだ学校を見て回る?」


「ううん、もう帰ろう」


美香は首を振った。


今日連絡先が二つ増えていた。


瀬戸青舟のアイコンはバスケットボールを片手で持つ写真で、すごく活発そう。


山本健太のアイコンはアニメのキャラクターだった。


すぐにアニメアイコンからメッセージが届いた。

【こんにちは、山本健太です。お名前は?】


美香は自分の名前を返信し、すぐに十万円を送金した。

【瀬戸青舟のこと、特に誰かと揉めてたら教えて。よろしくね!】


送金額を見て、山本健太は目を丸くした!こんな大金、この美人さん太っ腹だ!


【まかせて!絶対に彼を見張ってる!】


美香は校門に向かいながら、ふと思いついて、指で画面をタップした。

【そうだ、君の学校に特に悪さをする高三の不良とかいる?いたら写真送って】


これも純也を直接探す手がかりになるかもしれない。


山本健太はすぐに返信した。

【今のところ聞いたことないけど、あとで調べてみる!】


美香:【ありがとう!】


山本健太:【姐御のためなら当然だよ!】


美香は思わず笑った。

【ふふ、もうすぐ授業始まるよ。ちゃんと授業聞いてね!】


山本健太は慌ててスマホをしまい、姿勢を正した。


車に乗り込むと、竹内が美香に言った。


「どこか遊びに行く?先にそこへ送るのもいいけど。でも私はこれから会社でグループ会議があるの」


補佐のポジション争いは激しい。仕事で遅れを取りたくなかった。さっきも秘書から重要会議をなぜ欠席しているのかと連絡があったばかりだ。


美香は自分のせいで竹内の時間をたくさん取っていることを知っていたので、にこやかに答えた。


「会社に一緒に行くよ。直樹の会社、まだ見たことないし」


竹内は仕事熱心な人だと、美香は見抜いていた。


桜川第一高校から星輝財団本部までは距離は近かった。


車を降りると、美香の目に雲を突くガラス張りの高層ビルが映った。「星輝財団」と大きな文字が太陽にきらきらと光っている。この瞬間、彼女は弟の直樹が巨大なビジネス帝国のボスになったという現実を実感した。


昔、家の会社の規模はこんなものではなかった。


竹内について会社のロビーに入ると、受付がにこやかに挨拶した。


「竹内さん、こんにちは」


竹内はうなずいて応えた。「こちらは?」受付が美香を見て尋ねた。


竹内は簡潔に、「藤原様のご家族です」と言った。


この言葉は身元をはっきり示し、余計な憶測も防いだ。受付は当然、丁重に対応する。


美香は竹内の機転に感心した。


ロビーでは社員たちが竹内を見かけるたび、恭しく挨拶していた。


社長室直通の専用エレベーターの中で、美香は竹内に心から言った。


「葵姉さん、本当にすごいね!」


竹内は無意識に首を振った。「いえいえ、そんなことないよ」


美香は真剣な顔で言った。


「社長の補佐なんて、会社の中でも高いクラスだよ。まだ二十代なのに、本当にすごいことだよ!もっと自信持って!」


竹内は褒められることに慣れていなかったが、美香の輝く瞳を見て、胸の奥に力が湧いてきた。


「うん、私、すごいんだ!」


彼女が自分でそう認めたのは、これが初めてだった。


グループ会議は月一回、全管理職が必ず出席し、地方からはオンライン接続だ。


会議はすでに始まっていた。竹内は急いで向かう必要がある。


「まずは藤原様のオフィスで休んでて」


美香は彼女の手を取った。


「葵さん、会議室の後ろで見学させてもらえない?グループ会議って見たことないから」


本当は、直樹が会議している姿を見てみたかった。


普通なら部外者は会議室に入れないが、社長の姉なら話は別だ。


竹内も断りきれず、「いいよ。後ろのドアから、こっそり入って座ってて」


広い会議室の後ろのドアが静かに開き、スリムな影が素早く中へ入り、空いている席に座った。そしてそっと頭を出して観察し始めた。


会議室は広く、中央の長いテーブルにはコアメンバーが座り、他のスタッフは周囲の席にばらけて、百人以上はいるだろう。長テーブルの主席には黒いスーツ姿の男性が座っていて、冷たい威厳を放っている。


髪が薄い幹部が今、業務報告をしていた。


彼は下を向いて聞いていたが、ときおり顔を上げて報告者を見る。その視線は圧迫感がある。


冷たい声で問題点を的確に指摘した。報告していた幹部はひたすらうなずくしかない。


美香は口元を隠してこっそり笑った。うちの弟は本当に社長の様になってる~


こんな大事な会議でも、やっぱりこっそりおしゃべりする人はいる。


美香が座って間もなく、前列の二人が内緒話を始めたのに気づいた。


退屈しのぎに、身を少しひねって聞き耳を立てる。


「この前の役員会、藤原様が途中退席したらしいけど、今日もそうなるのかな…」


「それ、早乙女遥のためだって!三越デパートを丸ごと貸し切って付き合ったらしいよ!」


「うらやましいなぁ、早乙女遥の人生、一日でいいから代わってほしい!」


美香は眉をひそめた。


あの日、ショッピングモールが貸し切りになったのは、直樹が会議を抜けてまで行ったのか?


会議が終わるまで待てなかったのか?思わず拳を握りしめる。


そのとき、会議室の最前方から、どこかで聞いたことのある特別な着信音が鳴り響いた——


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