「はい、今日はここまでで収録を終わります!」
現場ディレクターがメガホンを手に宣言した。
瀬戸は伸びをしながら、疲れた様子で首を回す。
彼にとって、バラエティ番組の収録はドラマ撮影よりもずっと疲れる。
ドラマは休憩時間が多いが、バラエティは常に気を張り詰めていなければならない。
しかも今回は収録型のバラエティだが、この後には生放送のバラエティも控えている。考えるだけで気が重い。
収録が終わりスタジオを出ると、外はすっかり暗くなっていた。
マネージャーがスマホと開けたミネラルウォーターを差し出す。
「達也さん、お疲れさまでした。お水どうぞ。」
瀬戸達也は水を一口飲んでマネージャーに返し、スマホを手にメッセージを確認した。
早乙女遥からは、いまだに返信がない。
彼は眉をひそめた。いくら機嫌を損ねたって、そろそろ限度ってものがあるだろう。遥は少しやりすぎだ!
もう早乙女遥にはメッセージを送らず、他の通知をチェックし始めた。
今日はバラエティの進行が押していて、ほとんどスマホを見られず、食事もスタジオで済ませたので未読メッセージが溜まっている。
マネージャーからの仕事の連絡もあれば、他の女優からの食事の誘いもあった。
瀬戸達也は適当に返信し、どこか傲慢な表情を浮かべる。
彼には金も名声もあり、ファンは何百万人といる。周囲には彼を狙う女も多い。早乙女遥ももう少し危機感を持つべきだ。
ふと、弟の青舟からの二件のメッセージに気づく。
あいつ、今は学校じゃなかったか?暇なのか?
開いてみると、弟は「今日、兄貴の高校時代の彼女にそっくりな子を見かけた」と書いていた。
瀬戸達也は一瞬驚いた。高校時代の彼女?誰だ?藤原美香か?
普通なら写真を開いて見るところだが、今はそんな気分じゃない。
なぜなら、彼が早乙女遥と揉めているのも藤原美香が原因だからだ。
十年以上も前に亡くなった人のことで揉めるなんて、馬鹿げている。
早乙女遥はこのことに何ヶ月も怒っている。
女って本当に面倒だ!
彼は打ち込んだ。【ちゃんと勉強しろ!変なこと考えてないで!】
美香に似た人なんて滅多にいない。彼女は今まで見た人の中で、一番美しかった。誰もが振り返るほどの絶世の美女。
だが、若くして亡くなってしまった。
彼はかつてないほどの努力をして彼女を追い、告白のために何度も計画を立てたが、結局手も繋げずに彼女はいなくなった。
瀬戸達也の目に一瞬、悔しさがよぎり、ため息をつく。
実は、あの日、早乙女遥に「どっちが好きか」と聞かれた時、すぐには答えられなかった。
彼女は初恋であり、唯一本気で追いかけた女の子だった。
早乙女遥はここ数年で一番心を動かされた女性。か弱くて美しい。
タイプは全く違うし、比べるものでもない。
だが、もし早乙女遥にもう一度聞かれたら、今度は「早乙女遥だ」と答えるだろう。
彼は現実主義者で、今はもう美香を好きではない。
十年以上も経てば、亡くなった人をずっと好きでいられるわけがない。
ホテルへの車に乗り込み、瀬戸達也は他のメッセージを見ていた。
瀬戸青舟から返信が来た。【今、授業終わったところ。本当にそっくりなんだ!本当だよ、思い出せば思い出すほど似てる!】
瀬戸達也は暇つぶしに返信した。【あの子はもう十年以上前に亡くなった。俺が高校生の時、お前はまだ五、六歳だったろ?そんなに覚えてるはずない。絶対見間違いだ。】
瀬戸青舟:【小さかったけど、兄貴はその後何年も携帯の待ち受け画面を彼女の写真にしてたじゃん。俺、よく兄貴の携帯借りてゲームしてたから、覚えないわけないよ!】
その話に、瀬戸達也は眉をひそめる。
自分がそんなに純情だったとは忘れていた。
瀬戸青舟はさらにメッセージを寄越した。【でも、兄貴は他にも色々な人と付き合ってたけどね。】
瀬戸達也:【黙れ!余計なこと言うな!】
思い出した。大学時代、確かにずっと美香の写真を待ち受けに使っていた。
聞かれた時は「ネットで拾った画像」と答えていた。
その写真を使っていたのは、単なる追憶だけじゃなく、他にも理由があった。
そう思うと、瀬戸達也の瞳に影が落ちた。
瀬戸青舟からさらにメッセージ。【でもさ、本当にその子、俺に声かけてきた方法がすごく独特でさ。うちの学校の生徒じゃないのに。俺、やっぱりモテるな!】
瀬戸達也:【調子乗るな!恋愛なんかしてないで、ちゃんと勉強しろ!】
瀬戸青舟:【分かってるよ、自分の立場くらい。】
彼は母親の希望だから、一生懸命頑張るつもりだ。
この出来事は、瀬戸達也にとってはちょっとした出来事にすぎなかった。
彼は少し疲れてスマホをオフにし、椅子の背にもたれ目を閉じた。
だが脳裏には、無意識に美香の姿が浮かぶ。
弟の話によれば、美香に似ているその子は、性格は全く違うらしい。
美香は本質的にプライドが高く、絶対に自分から男に声をかけたり、簡単に人を好きになるタイプではなかった。
そして瀬戸達也こそが、彼女が唯一心を動かした相手だったのだ。
その夜、別荘の前――
「夜は早く休めよ。竹内から聞いたけど、お前、桜川第一高校まで瀬戸達也の弟に会いに行ったんだってな。俺のこと恋愛バカって言うけど、瀬戸達也も大したいいヤツじゃないぞ。もうあいつを好きになるなよ!」
直樹は車を停め、ついに言いたいことを口にした。
美香は口を尖らせる。
「誰がまだ瀬戸を好きだって言ったの?もう好きじゃないよ。私は自分で考えてやってるの。余計な口出ししないで。」
直樹:「……」
お姉さんが彼に口出しするのは、彼は喜んで受け入れる。
でもお姉さんのことは、彼にはどうにもできない。
なぜなら、お姉さんが一度心に決めたことは、誰にも変えられないと、子供の頃から知っているからだ。
彼は片手でハンドルを支え、ため息をついて後部座席を見た。
美香は純也のことを直樹に話したくなかった。なぜなら彼は会社のことで忙しいからだ。
純也を探すことは大事だが、直樹に余計な心配をかけたくなかった。
どうせ自分は今暇だし、集中して調べればきっとすぐに何か分かるはずだ。
美香はシートベルトを外して車を降りようとしたが、横目で直樹がいくつかのプレゼント袋を差し出すのを見た。
美香はすぐに車へ戻り、目を輝かせる。「これ、私に?」
直樹はライトをつけ、数珠が柔らかい光に浮かぶ。
「他に誰がいるんだよ?開けて気に入るか見てみろ。」
美香はすぐに包装を開けた。
きらきらとまばゆい光が目を射る。
デザインの美しいダイヤモンドの指輪が二つ、そして三つの金のアクセサリー――ひとつはブレスレット、ひとつは犬の形のゴールドペンダント、もうひとつは仏様の形をした大きな金塊だ。
美香は口元を大きくほころばせる。
「すごく気に入った!ありがとう、関東の貴公子!最高のセンスだね!自分で選んだの?」
この手柄は直樹も認めたいところだが、竹内葵が後部座席に座っている。
「いや、竹内に買いに行ってもらったんだ。」直樹は正直に言った。
美香は明るい笑顔で振り返り、後部座席の竹内を見た。
「やっぱり葵さんが選んだんだ!このブレスレット、葵さんにあげる!」
20グラム以上もある金のブレスレットを後部座席へ渡す。
竹内葵は首を振る。
「いえ、大丈夫です。これは藤原社長が美香のために用意したものです。」
美香は半身で後部座席に身を乗り出し、無理やり竹内の手首にブレスレットをはめた。
「ほら、すごく似合ってる!あれは彼が私にくれたもの、これは私があなたにあげるの、別におかしくないでしょ?それに、すぐ学校に通うから、こんなでっかい金のブレスレットなんて付けていけるわけないじゃん!」
冷たい感触が手首に広がり、竹内葵の心は温かくなったが、やはり受け取るのをためらう。
「いや、こんな高価なもの……」
直樹の声が運転席から聞こえる。
「もらっとけよ。そんなふうに渋ると、俺がケチな社長みたいじゃないか。」
彼は、節目の時には竹内葵に先方の方々への贈り物を用意するよう頼み、ついでに彼女自身にも一つ残させて、全部会社経費で落としていたのを思い出す。
竹内葵が顔を上げる。
「藤原社長が私にケチだなんて、そんなことありません。でもこれは美香さんがくれたもの。彼女、まだ学生ですよ!」
美香はあごを上げる。
「葵さん、分かったよ。つまり私が貧乏だって言いたいのね?ふん!少女を侮るなよ!」
直樹と竹内葵は同時に吹き出した。
「分かった、じゃあ遠慮なくいただきます。美香さん、藤原社長、ありがとうございます。」
竹内葵は指先でブレスレットをそっと撫でた。
美香は本当に優しい人だ。恩返しするにはどうすればいい?もっと仕事を頑張って、会社をもっと大きくしなきゃ!
プレゼントを手に車を降りた美香は、スマホを出して服部遼介に門を開けるよう連絡した。
服部遼介はすぐに出てきた。
端正な顔立ちに白いシャツ、広い肩と細い腰、今日は黒いネクタイを締めていて、特に禁欲的でセクシー、どこか和風の涼しさも漂わせていた。
直樹と葵は彼に挨拶する。
服部遼介は穏やかに微笑み、美香と一緒に中へ入っていった。
葵は閉じたドアを見つめ、眉をひそめて小さく呟く。
「こんな大きな別荘なのに、家政婦さんいないの?服部様が自分でドアを開けるなんて……」