「へぇ~。部室棟ってこんな風になってたんだね?」
大学本棟から徒歩5分ほど離れたところに、ポツンと取り残されたように建っている寂れた部室棟。本当に入っても大丈夫なのかな・・・・・・って不安になるような外観に反し、内部は意外ときれいに整っていた。
「意外とキレイっしょ? 外観は完全にボロアパートだけどねー」
結局なんだかんだ言ってついて来てくれた飛鳥ちゃんも、私が考えていたことと同じようなことを言っていた。
先導してくれる飛鳥ちゃんの後ろをついて行き、階段で3階まで登っていく。
「いろんなサークルがあるんだね~。こっちは『柴漬け研究会』……こっちは『野球盤部』? あ、『槍部』の部活もあるね」
「『槍部』ノハナシハヤメテ……」
相変わらず、槍部の話になるとすっごい遠い目になる飛鳥ちゃん。本当に、いったい何があったのだろう……?
それにしても、サークル一覧にこんなサークル載ってたっけ? そんな真剣に見たわけじゃないから、ただ見落としてただけなのかもしれないけど。
でも、冊子で名前だけを見るよりも、こうして部室の前まで来てみると、ちょっとだけ興味が出てくるから不思議だ。
「あ、由依。あったよー!『アニメ研究会』の部室!」
飛鳥ちゃんが廊下の奥のとある一室の前で立ち止まり、こちらに手招きをしてくれる。
呼ばれた方に向かってみるとそこには、画用紙に「アニメ研究会」と小さい字で書かれただけの張り紙がされた扉があった。可愛らしいイラストやカラフルな文字があしらわれている他サークルのそれと比べると、不思議となんだか素っ気ないような印象も受ける。
扉の前へと立ち、小さく深呼吸。
「・・・・・・飛鳥ちゃん?」
一抹の不安を覚え、飛鳥ちゃんの方を向いて尋ねる。
「ん? どうした由依?」
「アニメ研究会ってさ・・・・・・やっぱり、お母さんに買って貰ったチェックシャツの下にアニメキャラのTシャツを着た風呂キャン界隈の脂ぎった早口オタク男子たちの集まりなのかな・・・・・・? だとしたら・・・・・・人見知りの私にはちょっとハードルが・・・・・・」
脳内イメージが急に、ステレオタイプなオタクたちの集会にジャックされ、なんだか急激に不安になる。思考がそっち方向に引っ張られているせいか、飾り気の無いぶっきらぼうな張り紙が余計にそれっぽく見えてきた。
「どうしよう、飛鳥ちゃん・・・・・・扉を開けた瞬間『由依氏~』とか言ってねっちょりした早口で迫ってくる風呂キャン男子とかいたら、私やっていける自信ないよ~・・・・・・」
「いや・・・・・・ここ女子大だから」
「・・・・・・あっ、そっか」
勝手な妄想から一人でパニクっている私のことを、呆れた目で見ている飛鳥ちゃん。
「それに、いったいいつの時代のオタクの話? それ? 今時そんな変なヤツそうそういないって」
「そ、そうだよね・・・・・・あはは・・・・・・。今どきそんな変な人、逆に珍しいよねぇ~」
「そうそう。ほら、せっかくここまで来たんだから、早く入るよ」
「うん・・・・・・」
「変な人がいませんように・・・・・・!」と願いを込め、扉に手を掛ける。
改めて大きく深呼吸した後で扉を開け、おそるおそる中へ足を踏み入れようとすると・・・・・・。
「ボクのターン! ドロー! ふっふっふー! ボクをここまで追い詰めたことだけは褒めてあげるよ。 ・・・・・・でも、これで終わりだー! ボクは手札から、ジョーカーを召喚!
「甘いね。・・・・・・私は手札から、スペードの3を召喚」
「・・・・・・な、なんだって!?」
「スペードの3の効果で、
「ぐわああぁぁぁぁ!!!!! ・・・・・・がくっ」
・・・・・・ステレオタイプなオタク男子が霞んで見えるほど変な人たちが、やたらハイテンションにカードゲームをしていました。