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「今度は僕がリオンに謝る番だな」


 レアエルは莉音に向き直り、真剣な目つきで彼女を見つめた。


「君が好きだと言っていた“ラヴァ”は……僕が自分で大人になる魔法をかけた姿だった。騙していて申し訳なかった」

「……なんでそんなメンドクサイことしたの? 大人になる魔法なんか使わなくてもレアくんはかっこいいじゃん」

「かっこいいと言われたいから魔法をかけたわけじゃない。いつかレインを殺す時、子供の姿だとバレるからと思って……」

「えっ、俺? 俺を狙ってたからあんな姿に?」

「……うん。ごめんなさい」


 レアエルがレインの命を狙っていたことや莉音を騙していたことを謝罪すると、それまで頬を膨らませながら話を聞いていた莉音は「もー、しょうがないなぁ! 許してあげるっ」と言ってレアエルをぎゅうっと抱きしめた。


「ちょ、なっ、軽率に抱きつくな!」

「なんでぇ? あ、照れてるのー!? レアくんってば可愛い!」

「うるさい! お、お前に抱きつかれたって何も嬉しくないし!」

「またまたぁ! ほんとにツンデレなんだからっ」

「つんでれってなんだよ!」


 レアエルと莉音が楽しそうにしているのを見ると、平和が戻ってきたのだなと深侑は心底安心した。ただ、リエーネが言っていたように魔王はいなくなったがまだ残党がいるのは確認が取れている。これからしばらくは莉音もエヴァルトも残党魔物の討伐で忙しくなるということだった。


「でもさぁ、残りの魔物を討伐し終わったらあたしってどうしたらいいんだろ? この世界にはもう聖女は今後必要なくなるんだよね?」

「リオンが最後の聖女として歴史に残るだろうな。それはそれで偉大なことだ」

「歴代の聖女様は教会で孤児院を営んだり、学校を開いたりする方が多かったと聞きますね」

「孤児院……学校……じゃあ、みーたん! あたしと一緒に孤児院も学校も作ろーよ!」

「全く君は、そんな簡単に言って……」

「いいじゃーん! みーたんとあたしなら、家族がいない子でもみーんな幸せに暮らせる孤児院も、みーんな楽しく勉強できる学校が作れるって!」


 莉音はきっと、聖女になるべくして生まれてきた女の子なのだろうなと、彼女の眩しい笑顔を見つめながら深侑はぼんやりと考えた。


 彼女の周りだけ太陽や月の明かりが差しているように明るく、キラキラと輝いている。莉音の真っ直ぐな心に、深侑も未来を決める覚悟ができた。


「矢永さんとなら、俺は一生“先生”として生きていけるだろうな……」


 こちらの世界に来ても教師として働いている深侑に『教師は天職じゃん!』と言ってくれた莉音を思い出す。彼女とならきっと、自分はそう在り続けられるのだろうなと未来のことが想像できた。


「みーたん、これからもあたしと一緒に生きてくれる?」


 レインの部屋からの帰り道、エヴァルトとレアエルが所用があるからと深侑は莉音と共に庭園を訪れていた。美しく咲き誇っているピンク色のバラを鑑賞しながら、莉音がぽつりと言葉を漏らした。


「……矢永さんと結婚はできない、と思う」

「そうじゃなくて! あたしの保護者としてって言うか……家族として?兄として?みたいな……」


 深侑と莉音はもちろん血が繋がっていない赤の他人だ。でも、今の二人を『他人』と言うにはあまりにも遠すぎる。この世界で深侑は確かに莉音の保護者という立場でいたけれど、親というには年が近すぎる。


 その中で最も近しい言葉は、きっと――


「“兄”でいいなら、これからも一緒に生きていくよ」


 深侑がそう言うと莉音の大きな瞳からボロボロと涙が零れ、深侑は優しく抱き寄せて震える頭を撫でる。この世界に来て初めて見た莉音の涙に、深侑もどこか安心した。ずっと気を張っていたであろう莉音がやっと『家族』の前で見せる素顔に、深侑の心は打たれた。


「みーたん、あのね。話があるんだけど……」

「うん?」

「あたしさ、ラヴァくんことが好きだったじゃん?」

「そう、だね」

「……4歳差ってヤバイかな?」

「え?」


 泣いたのもあるが、それとは違う理由で莉音の顔が赤く染まっているのが分かる。そういうことかと理解した深侑も、つられて顔が赤くなるのを感じた。


「……10代の4歳差はすごく離れてるように見えるよね。中学や高校だと被らない年齢差だし」

「だよねぇ……」

「でも、20代になった時の4歳差って、案外どうでもよくなるものだよ」

「みーたんとエヴァルトさんみたいに?」

「うん。どっちかって言うと小公爵様のほうが年上に見えるでしょ」

「確かに」

「そんなもんだよ。こっちの世界では幼い頃から婚約もザラにあるらしいし……今は確かにレアエル殿下は12歳だから、16歳になるまで待ってから押して押して押しまくってみたら?」

「あははっ、そっかぁ。そーだよね! 4歳差ってそんなもんかー!」


 莉音は空に向かって「それまでに胃袋掴むぞー!」と大きな声で目標を叫ぶ隣で、深侑は「がんばれー!」と返事をしたら衛兵に注意されたのは二人だけの秘密になった。



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