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ベランダにドラゴンが生えてきた
ベランダにドラゴンが生えてきた
松下一成
文芸・その他雑文・エッセイ
2025年07月08日
公開日
6,158字
連載中
リモートワークが増えた時期に気まぐれで買った何の変哲もないプランター。 案の定、1回だけ野菜を育てて満足してしまってそのまま放置してしまっていた。 有る雨の日、そのプランターを何気なく見てみたらドラゴンがそこに生えていた。

第1話 雨と共に

 朝起きた時、雨の音がした。天気予報通りの朝から降っているらしい。私はどのくらい降っているのか気になってベランダの窓を開けた。


 「・・・ドラゴンだ」


 私の借りているアパートのベランダ。そこには少し前、リモートワークが多くなって、何かやることは無いかなと動画サイトを見ていた時に影響され、買ってきた家庭菜園用のプランターが置いてある。


 もちろん何も植えてない。トマトを一回育てたのはいいのだけれど、案の定すぐに飽きてしまってそのまま。


 だから雑草が生えているだけのプランターだったのだけれど。


ドラゴンが生えてきた。


 良く見なくてもそれは一目でドラゴンだと分かった。尻尾が多分根っこの役割をしているのだろうか、土の中に埋まっている。目は閉じていて、座っている感じでじっとしていた。


 「夢じゃない?」と一瞬思って窓を閉め、そしてまた再び開ける。・・・やっぱりいるよね、そうだよね。


腕を組んでしばらく考える。


「私・・・ドラゴンの種なんか植えたっけ?」


身に覚えはない。


 住んでいるアパートは2階。おまけに私は1人暮らし。私以外このプランターの存在を知らない。・・・どこからか種かなんかが飛んできたのだろうか、それか鳥が運んできたか。


「とりあえず、水をあげてみるか」


 玄関に向かい、置いてあったジョウロに水を入れるとそのままプランターへ注ぎ込んでみた。土は雨で湿り気を帯びていたのだけれど、それでも勢いよく水を吸い込んで行った。


水をあげている時、有ることに気が付く。水が下から出てこない。おかしい、普通なら下から出てくるはずなのに。


「全部こいつに吸われてるのかな」


 水をやり終え、しばらくじっと見つめる時間。・・・かわいいのかどうなのか、と聞かれるとどっちでもないような。前、会社の同僚にトカゲを飼っている子がいて見せて貰ったことが有るのだけれど、そういう爬虫類っぽさはない。


 どちらかというと植物に近いのかもしれない。


 今度は虫眼鏡を持ってきてまじまじと見てみる。表面は葉っぱみたいで色は青緑。なんというか水分をたくさん含んでいて動きそうな感じはする。口は完全に閉じていて歯を見ることが出来ない。・・・こいつは何か食うのだろうか。


 しばらく眺めていると、急に雨が弱くなり、そして風が吹いた。


 するとドラゴンの目がゆっくりと開いていく。少しだけびっくりしたがその様子をじっと見つめることに。


「片目が青、もう片方が紫」


 こういうのなんて言うんだっけ、オッドアイだそうだ、思い出した。目の色が左右で違うやつ。次第に完全に目が開き、その目は私の方を見ている。すると自分の尻尾が土に埋まっていることに気が付いたのか手で土から尻尾を出した。


 植物の根っこのような感じはない。トカゲのような尻尾だった。


 大きなあくびをした後、また私の顔を見つめてきた。


「・・・あんた、どこから来たの?」


話しかけてみるも返事はない。それもそうか、言葉が通じないなら仕方がないな。と腕を組んで見つめているとドラゴンは立ち上がり、そのまま私の部屋の中に入ってきた。


「ちょっと、ちょっと!」


 慌てて近くに置いてあったタオルを下に敷いた。何せ足が泥まみれ。これで部屋の中を歩き回られたら掃除が大変になる。そんな私の感情を読み取ったのかドラゴンは置かれたタオルの上に足を乗せ、何度か足踏みをして土を落してくれた。


 そして部屋を一通り見まわすと、ある部分で彼の目が留まった。


 本棚。


 置いてあるのは雑誌、漫画本。それから小説、哲学書とかそんなの。そこに興味が出たらしい。彼は器用に手と足を使って本棚によじ登るとお気に入りの一冊を見つけたのかそれを持って、近くにあった座布団の上に座って読み始めた。


「まあ、大人しくしてるならいいや」


 そう思って私もパソコンの前に座って仕事を始めた。時間が経って、夜が近づくと彼はまたプランターへ戻っていった。


 彼の生活は朝起きて部屋に入って来て、本を読み、そして日が沈む頃にプランターに変える。


 そんな生活が3日ほど経過したとき、彼に有る変化がやってきた。

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