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第2話 言葉

 朝、私はいつものように窓を開け、彼を部屋に招き入れた。ここまでは昨日まで同じ。けれど本棚には向かわずに座布団の上に座った。すると彼は口を開いたのである。


「・・・あんたの名前はなんて言うんだ?」


「しゃべれたの?」


 とっさに出た私の言葉はこれだった。前に話しかけた時に全く反応が無かったのに。するとドラゴンは本棚とパソコンを指さした。


「文字はここで、それと、音はそこから覚えたよ」


「なるほどね」


 彼の言葉に納得した私は面と向き合って彼の正面に座った。


 さて、ここからどうしようか。言葉が通じるのであれば話がしたい。色々と気になっている点が山のようにある。


 でも、名前を聞かれているんだよな。じゃあ答えるのが先か。


「私の名前は美香(みか)」


「漢字だと?」


「美しいって字と香りって字で描く」


 机の上に置いてあった白い紙にボールペンで自分の名前を書くとそれをドラゴンはまじまじと見つめた。


「美香・・・ミカ。なるほど」


「あなたの名前は何なの?」


「僕?僕はまだ名前が付いてない。ここで生まれたんだから」


 それもそうかと納得してしまった。生まれた時に名前が付いてくるわけではない。例え決まっていたとしてもそうだよな、この状況だと決める人が居ないんだから。名前は大抵親からもらうわけで。


「・・・自分で決めたら?」


「人は自分で名前を決めるのか?」


「まあ・・・そういう人もいなくはないかもしれないけど・・・。本名は家が半分、親が半分みたいな感じで決まるかなぁ」


「そうか・・・だったら僕もそれに従った方がいいだろう」


 ってことは誰かがこのドラゴンの名前を決めなければならないことになる。けれど、彼の存在を知っているのは私だけ。つまり私が名前を付けなければいけなくことを意味していたのだけれども・・・全く思いつかない。


「名前を決めるってのは難しいな・・・」


 そんな時、有るモノが目に入る。それはカレンダーだった。私はスマホを手に取ると日付を確認する。


「今日は10月。でも、彼を見つけたのは9月の末日・・・」


 9月の和名は「長月」。けれど、これでは安直すぎるかも。と考えた私はもう一つの方を私なりに考えて彼に差し出すことにした。


「9月には長月っていう別名があるんだけど、それだと面白くない。だからもっと別の方で〝色取り月〟っていう呼び名があって」


「・・・じゃあ僕の名前はその色取り月ってこと?」


 でもこれだと呼びづらい。だからもう少し考えて「色取り」は「彩」。読み方を変えると「あや」。それで子供は親から一文字貰うって言うのがあるから「彩香」(あやか)にすることにした。


「それいいね、彩香」


 ここで私はあることに気が付く。さっきから彼とか言っていたけど、性別を知らない。見た目で男っぽいからそう呼んでしまっていたけど。


「アヤカ、あなた性別は?男、女?どっち?」


「僕に性別は無いよ」


「そっか、じゃあいいかこれで」


 さて、彼に名前が付いた。さっきまで無かったものが付いた彼は私からアヤカと呼ばれる存在に成った。座布団の上に座り、考えることに。


「さて、何から聞こうか」


 聞きたいことは沢山ある。どこから来たのか、何をしに来たのか、とか。


 しばらく考えてから私はアヤカに質問をした。


「どうしてこの世界に来たの?」と。

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