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第2話「忘れられた記憶と新たな出会い」

その夜、摩緒は深い眠りに落ちていた


しかし、彼の夢は決して穏やかなものではなかった


夢の中で、摩緒は幼稚園児の姿に戻っていた。まだ幼い頃の記憶・・・それは彼が封印したがっていた、忌まわしい過去の断片だった


「摩緒くん、またお昼寝してる〜」


「ボーっとしてばっかりで、つまんない」


幼稚園の教室で、数人の園児たちが摩緒を取り囲んでからかっていた


幼い摩緒は困惑し、次第に情緒不安定になっていく


「やめて・・・やめてよ・・・」


摩緒の感情が高ぶった瞬間、異変が起きた


教室にあった積み木、絵本、クレヨンの箱・・・それらが突然宙に浮かび上がったのだ


「「わあああああ!」」


園児たちが悲鳴を上げる


浮き上がった物体は縦横無尽に飛び回り、窓ガラスにぶつかって割れ、壁に激突して穴を開けた。教室は瞬く間に混乱に陥った


摩緒は自分の力をコントロールできずに、さらに混乱していく


涙を流しながら、必死に止めようとするが、異能力は暴走し続けた


そんな時、飛び回る積み木の一つが、隅で震えていた佐奈子に向かって飛んでいった


「佐奈子ちゃん、危ない!」


博輝が駆け寄り、佐奈子を庇うようにして積み木を受け止めた


「摩緒くん!」

博輝は摩緒に近づき、混乱する彼を抱きしめた


「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて」


博輝の温かい声と抱擁に、摩緒の心は徐々に平静を取り戻していく

宙に浮いていた物体たちも、ゆっくりと地面に降りていった


「博輝・・・」

摩緒は博輝の名前を呟いた・・・その瞬間!!!


「っ!」

摩緒は汗びっしょりになって目を覚ました


「こんな時に、嫌な夢を見たな・・・」


彼は頭を振り、その記憶を振り払おうとした


しかし、その夢があまりにも鮮明で、まるで昨日のことのように感じられた


・・・・・


摩緒が学校に到着すると、校長室から一人の女性が出てくるのを見かけた


その女性は長身でスラリとした体型をしており、腰まで伸びた美しいストレートの髪が印象的だった


釣り目の眼鏡をかけた顔立ちは整っているが、どこかきつそうな印象を与える美女だった


(あの人が新しい担任の先生かな……)


摩緒は何ともいえない違和感を覚え、それと同時に、どこかで見たことがあるような既視感も感じていた。しかし、それが何なのかは思い出せない


首を振って、摩緒は教室へと向かった


・・・・・


「皆さん、今日から担任を務めさせていただきます、周防辰美すおう たつみです」


予想通り、さっき見かけた美女が新しい担任教師として紹介された


クラスの男子生徒たちがざわめいているのが聞こえた


確かに美しい人だが、摩緒は何故か素直に喜べなかった


「それでは、数学の授業を始めます」


周防教師の授業が始まると、摩緒はいつものように幻想の魔法をかけて眠りにつこうとした・・・しかし、今日はいつもと違った


時折、背中に鋭い視線を感じるのだ・・・


それは明らかに周防教師の視線だった・・・


その視線は探るようで、まるで摩緒の正体を見抜こうとしているかのようだった


(なんだよ、あの視線・・・落ち着いて眠れない)


摩緒は不機嫌になりながらも、何とか授業をやり過ごした


・・・・・


休憩時間になると、博輝が摩緒の机にやってきた


「おい、摩緒」


博輝の表情は珍しく真剣だった


「あの周防先生、ただ者じゃないぞ」


「え?」


「なんていうか・・・普通の人間じゃない感じがする、気をつけた方がいい」


摩緒は博輝の言葉に困惑した


博輝は元々勘が鋭い男だが、ここまで真剣な表情を見せるのは珍しい


「あれは一体何なんだ?」


「それは俺にも分からない・・・でも、確実に言えるのは、お前を狙ってるってことだ」


博輝の警告に、摩緒は背筋に寒気を感じた


・・・・・


授業が終わり、摩緒が帰る準備をしていると、周防教師が近づいてきた


「楠木くん、後で屋上に来てください」


「え?僕、用事があるので・・・」


摩緒は断ろうとしたが、周防教師は冷たい微笑みを浮かべた


「授業中の居眠りについて、お話しすることがあります」


(バレてる!?)


摩緒は驚愕した・・・自分の幻想の魔法は完璧だったはずなのに


「断るという選択肢はありません」


周防教師の言葉に、摩緒は仕方なく承諾した


屋上に着くと、周防教師は扉の鍵を閉めた・・・二人きりの空間に、緊張感が漂った


「さて、楠木くん・・・」


周防教師は摩緒に近づいてきた・・・そして、摩緒が驚く中、彼女は突然跪いた


「魔帝ヒルガデント様・・・この異世界に転生されていたのですね」


「は?」


摩緒は目を丸くした


「わたしは、貴方様の第一の配下・龍王ヒョーデルでございます」


周防教師・・・いや、ヒョーデルと名乗る女性は、恭しく頭を下げた


「え・・・えーっと・・・一体、何の話をしているんですか?」


摩緒は完全に混乱していた・・・魔帝?配下?龍王?まったく理解できない単語が飛び交っている


「まさか・・・ヒルガデント様が、ご自分が魔帝であることをご存じない?」


周防は驚きの表情を浮かべた


「でも、授業中に使われた幻想の魔法・・・あれは確かに魔帝の力、既にお目覚めになっていると思っていましたが・・・」


周防はじっと摩緒を見つめた・・・その視線は探るようで、摩緒の全身を観察している


「この雰囲気・・・やはり間違いありません、貴方は確実に魔帝ヒルガデント様です」


「はあ?頭大丈夫ですか?」


摩緒は呆れた表情を作った


この美人教師は完全に頭がおかしい痛い女だと認識し始めていた


「ラノベの読み過ぎで現実と妄想の区別がつかなくなったんじゃないですか?」


摩緒の言葉に、周防の表情が険しくなった


「もう帰りますから、屋上の扉の鍵を開けてください」


摩緒は苛立ちを隠さずに言った


「そんなはずはありません・・・」


周防は立ち上がると、摩緒に向かって手をかざした


「ヒルガデント様を目覚めさせて差し上げましょう」


その瞬間、周防の手の平から冷気が立ち上った


空気中の水分が凍り始め、みるみるうちに鋭利な氷の塊が形成されていく


「嘘・・・だろ・・・」


摩緒は目を見開いた・・・現実離れした光景に、彼の常識は完全に崩壊しようとしていた


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