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第9話「脳内会議と決死の交渉」

獣人形態になった格闘家5人に囲まれた摩緒


その時、再び脳内に謎の声が響いた


『余が力を与えてやる・・・』


「えええ?獣人とか、もうあり得ない現実なのに、とうとう幻聴まで聞こえちゃったの?」


摩緒は自分の頭を抱えた


「やばい、俺、厨二病こじらせちゃった?『余』とか言ってるし・・・」


『何だと!?余を幻聴扱いするとは・・・』


「あー、もう!幻聴と会話してる場合じゃない!」


摩緒は異能力を発動させ、周りの石や木の枝を宙に浮上させたと同時に格闘技の構えを取った


獣人たちもそれぞれの魔法で応戦した


「火炎放射!」


炎の獣人が火の玉を放つと同時に、摩緒に向かって跳びかかった

鋭い爪を振り下ろすが、摩緒は横に転がって回避する


「氷の槍!」


氷の獣人が氷の槍を投げつけた瞬間、摩緒はその槍を持つ腕を掴んで振り返し、火の獣人の顔面に右ストレートを叩き込んだ


「がはっ!」


火の獣人がよろめいた隙に、雷の獣人が背後から爪で切りかかってきた


摩緒は咄嗟にダッキングでそれを避け、低い姿勢から雷の獣人の腹部にアッパーカットを放った


「ぐおお!」


しかし、土の獣人が横から強烈な爪攻撃を仕掛けてきた


摩緒は両腕でガードしたが、その威力で数歩後退する


「雷撃!」


回復した雷の獣人が電撃を放つ


摩緒は跳躍してそれを避けると、空中で風の獣人と激突した


「風の刃!」


風の獣人が空中で爪を振るい、風の刃を放つ


摩緒は空中で体を捻ってそれを避け、風の獣人の顔面に膝蹴りを決めた


「ぐあああ!」


地面に着地した摩緒だったが、すぐに氷の獣人の爪が迫ってきた


摩緒は後ろに仰け反ってそれを避け、氷の獣人の足に向けてスイープキックを放つ


氷の獣人がバランスを崩した瞬間、摩緒は立ち上がりながら右の回し蹴りを顔面に叩き込んだ


「土の壁!」


土の獣人が摩緒の退路を塞ぐように土の壁を作り出すと同時に、火の獣人と雷の獣人が左右から挟み撃ちを仕掛けてきた


摩緒は異能力で石を浮上させ、それを蹴り飛ばして火の獣人の顔面に命中させる


そして雷の獣人の爪攻撃を右手で受け止めると、左のボディブローを腹部に決めた


「ぐはっ!」


5人それぞれが違う属性の魔法を繰り出しながら、同時に肉弾戦も仕掛けてきたが、摩緒の人間離れした身体能力で全て躱された


摩緒は風の獣人の爪攻撃を避けながら、カウンターで左フックを顎に決める


続けて氷の獣人の突進を横に避け、その勢いを利用して投げ技で地面に叩きつけた


「ちょこまかと・・・人間のガキのくせに!」


獣人の1人がイライラしながら叫んだ


「それに、さっきから独り言がうるさいんだよ!」


確かに摩緒は脳内の声と会話を続けながら、獣人たちの攻撃を躱し続けていた


「だから幻聴だって!!!現実逃避しちゃダメだ!!!!摩緒!!!!!」


『余は幻聴ではない!!!!』


「うるさい!気が散る!」


摩緒は謎の声を無視して、獣人たちの攻撃を躱し続けた


『見事な身体能力だ、流石は余の・・・・』


「褒めてる場合?今めっちゃピンチなんですけど!」


摩緒は獣人の爪を間一髪で避けながら突っ込んだ


『余の力を使えば、こんな危機など簡単に片付けられるぞ』


「あ~~~、でもそれって、俺の意思がなくなるんでしょ?」


『・・・・・』

謎の声が沈黙した


「図星だ!やっぱり乗っ取る気だ!」


『うっ・・・』


「お断りします!自分の力で何とかする!」

摩緒は頑なに拒否した


しかし、多勢に無勢・・・摩緒の動きは徐々に鈍くなっていく


「はあ・・・はあ・・・」


息が上がり、足取りが重くなった


獣人たちにもようやくチャンスが訪れた


「今だ!囲め!」


5匹の獣人が摩緒を完全に包囲した


最初に対戦した獣人の格闘家が前に出た


「最初は命を取らずに、格闘技ができない身体にするつもりだったが・・・ここまでコケにされた以上、殺してやる!」


獣人は巨大な火の玉を作り出した


その威力は先ほどまでとは比べ物にならない


『早くしろ!!!余の力を借りなければ、お前は死んでしまうぞ!!!!』

脳内の謎の声が焦っていた


摩緒は突然、にやりと笑った


「謎の声の人、僕が死ねば、君も死ぬんだよね?」


『な、何だと……』


「つまり、君の方が困るってことじゃん」


摩緒は獣人たちに向かって両手を上げた


「降参!!!ひと思いで殺してくれ!!!!」


「は?急に何だ?」

獣人たちは唖然とした


「まあ、いいだろう・・・苦しまずに殺してやる」

気を取り直した獣人は特大級の火の魔法を摩緒に向けて構えた


摩緒の脳内では激しい駆け引きが続いていた


「僕の意思を残したままなら、君の力を借りてもいいよ」


『この余を脅すのか!?』


「だって、自分の意思がなくなるって、死んでるのと一緒だもん・・・だったら、どっちでも良いよ」


摩緒は意外にも冷静だった


『ちっ!!!』


謎の声が悔しそうに舌打ちした


その時、獣人が放った特大級の火の魔法が摩緒を襲った


『『『ドオオオオオン!!!』』』


周りが見えなくなるほどの爆炎が吹き荒れた


「殺ってしまったのか?」


「前世の世界なら殺しても何の咎めもないが、今世では咎めを食らうぞ・・・」


獣人たちは動揺し始めた


「な~に、死体さえなければ、咎めなんてはこないさ」


魔法を放った獣人は強がったが、その声は震えていた


しかし!!!


「ザコ魔物の魔法如きで、余を殺せるかよ」


爆炎が静まると、そこには何事もなく悠然と立つ摩緒の姿があった


ただし、その雰囲気は先ほどまでとはまったく違っていた


威圧感に満ち、眼光は鋭く、まさに魔帝の風格を醸し出していた


「え?」

獣人たちは言葉を失った


魔帝化した摩緒は、ゆっくりと獣人たちを見回した


「さて・・・余と対峙した以上、殺される覚悟はあると言う事だな・・・」


その声は低く、威厳に満ちていた


しかし、どこか摩緒らしい部分も残っているようだった


「ちょ、ちょっと待て・・・お前、何者だ・・・」

獣人たちは後ずさりした


魔帝化した摩緒は不敵に笑った


「忘れたか?余は魔帝ヒルガデントだ・・・・」


摩緒らしい口調が混じる


「・・・君たちに、ちょっとお説教が必要みたいだね」


完全に魔帝になったわけではなく、摩緒の意思も残っているようだった・・・謎の声との交渉が功を奏したのかもしれない


獣人たちは完全に戦意を失っていた


目の前にいるのは、確実に自分たちより格上の存在だからだ・・・


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