ある休みの日、摩緒は自分の部屋のベッドで気持ちよく寝そべっていた
「あ~~こういう日は最高だな・・・」
摩緒がうとうとし始めた時、突然ドアが開いた
「お兄ちゃん!プール行こうよ!」
妹の実那が元気よく部屋に入ってきた
「眠いからやだ・・・」
摩緒は枕に顔を埋めて断った
「え~~せっかくの休みなのに!お兄ちゃん、つまんない!」
「だから眠いって言ってるだろ・・・」
「プール、プール!!!行こうよ~行こうよ~」
実那はベッドを揺らしながらしつこくせがんだ
「うるさいなあ・・・分かったよ、行けばいいんでしょ」
妹の余りの煩さに寝ることもできない摩緒は、仕方なく起き上がった
「やった~~!お兄ちゃん大好き!」
実那は嬉しそうに飛び跳ねた
・・・・・
プールへ向かう道中、摩緒と実那は、博輝と小さな男の子に出会った
「あ、摩緒!!!君もプールに?」
「博輝か・・・実那にせがまれてさ」
「俺も勇気に引っ張られて、君も大変だね」
博輝の弟・勇気が実那に手を振った
「実那ちゃん、一緒に遊ぼう!」
「うん!一緒に行こう!」
4人で歩いていると、今度は佐奈子と3人の女友達に出会った
「みんなもプールなの?すごい偶然!」
佐奈子が明るく声をかけた
「これはみんなでプールを楽しめそうだね」
博輝が笑顔で答えた
「摩緒は嫌々来たんでしょ?」
佐奈子が摩緒を見て苦笑いした
「まあ・・・そんなところかな」
摩緒は正直に答えた
・・・・・
プールに到着し、みんなで水着に着替えた
佐奈子たちはビキニなど華やかな水着を着ていた
「うわあ、みんなすごく似合ってるね!!!佐奈子ちゃんは可愛いし、由香ちゃんはスタイル抜群だし、麻衣ちゃんは大人っぽいし、恵美ちゃんは清楚で素敵だよ!」
博輝が褒めまくった
「博輝、君はそういうの得意だね・・・」
摩緒は呆れていた
「摩緒はどう?私のビキニ姿、似合う?」
佐奈子が摩緒に感想を求めた
「うん、うん、似合ってるよ」
摩緒は適当に答えた
「ちゃんとした感想を言ってよ!!!」
佐奈子は頬を膨らませて拗ねた
「お兄ちゃん、早くプール入ろう!」
実那と勇気が浮き輪を持って嬉しそうにプールに入った
「俺たちも入ろうか」
博輝が提案し、みんなでプールに入った
少しすると、摩緒がプールから上がり、空いているプールサイドチェアに座って寝てしまった
「楠木君ったら、プールに来ていきなり寝ることないじゃん」
佐奈子の友達が呆れて言った
「摩緒らしいわね・・・」
佐奈子は苦笑いした
博輝は摩緒を見つめながら心の中で思った
(こんな穏やかな日がずっと続く日常が一番幸せだよ)
しばらくプールで遊んだ後、佐奈子がビーチボールを持ってきた
「みんなでビーチボール遊びしない?」
「いいね!」
博輝と女友達たちが賛成した
「実那ちゃんと僕も一緒にやる!!!」
勇気も参加を表明した
佐奈子は寝ている摩緒を叩き起こした
「摩緒も参加してよ!」
「眠いから・・・」
「ダメ!みんなでやるの!」
「仕方ないな・・・」
摩緒は無理やり参加させられた
お互いにビーチボールをトスしながら、落とさないようにワイワイ遊んでいると、眠気まなこで参加した摩緒もいつの間にか本気になっていた
「摩緒、ナイスパス!」
「博輝、そっちそっち!」
「きゃー、落ちちゃう!」
みんな夢中になって遊んでいた
そんな時、水泳帽をかぶり、額には水中眼鏡、首にタオルを掛けた、キーホール水着の長身の女性が近づいてきた
「貴方たちも来てたのね」
摩緒と博輝のクラス担任・周防が声をかけてきた
「周防先生!?」
摩緒と博輝は最初びっくりした
「周防先生も来てたんですね」
「運動の一環で来たのよ」
周防が返事した
他のクラスの佐奈子と3人の女友達は、周防のスーパーモデル並みの美しいプロポーションに羨望の目で見つめ、自分たちは自己嫌悪に落ち込んだ
「周防先生、スタイル良すぎです・・・」
「私たちなんて・・・」
「何を言ってるの・・・皆さんとても可愛らしいじゃない、佐奈子さんは上品で、由香さんは健康的で、麻衣さんは知的で、恵美さんは清楚で素敵よ」
周防が褒めると、女の子たちは益々元気になった
「先生、ありがとうございます!」
「向こうのプールで泳いでくるわね」
周防は摩緒たちと別れた
・・・・・
泳ぎ疲れた周防がプールサイドチェアで休憩していると、チャラ男2人がナンパしてきた
「お姉さん、一人?良かったら一緒に遊ばない?」
「お断りします」
周防は即座に断った
「そんなこと言わずにさ〜」
「僕たち、楽しい男だよ?」
なかなか諦めないチャラ男たちを、周防が龍王の一睨みで追い払おうとした時・・・
「お姉ちゃん、ジュース買ってきたよ!」
博輝がジュースを持って周防に走り寄ってきた
「うちの弟が来てくれたので・・・」
周防は冷たい笑みでプールサイドチェアから立ち上がり、博輝と一緒にチャラ男たちから離れた
「あ~~~弟いるのか・・・残念」
チャラ男たちは諦めて去って行った
「ちょうど緒方君が来て助かったわ」
周防が礼を言った
「あの場所で龍王の能力を使ったら収拾に手間取りますからね」
博輝が苦笑いした
「それより、単身で柊直虎の格闘ジムに乗り込んだんですね」
博輝が突っ込んだ
「生徒が被害にあってるのに、抗議しないわけにはいかないでしょ」
周防が反論した
「それは建前で、大方、摩緒に近づくなと警告に行ったのでしょう?」
博輝が図星を突いた
「・・・・・」
周防は何も言えなかった
「貴女と同格の者と対峙して大惨事にならなくて良かったですね」
博輝が感心した
「あの獣王が落ち着きのある性格になっていて驚いたわ・・・」
周防は冷や汗をかきながら答えた
「だけど戦闘狂なところは変わらなかったの・・・獣王は私の警告を反故にして、どうにかして摩緒君と接触するでしょうね」
「既に摩緒の脳内では魔帝の意思と接触してます、いつ乗っ取られるか分からない状況です」
博輝が告白した
「それなら一段と、柊直虎の動きを監視しなければならないわね」
周防が覚悟を決め
「俺も手助けします」
博輝が約束した
・・・・・
周防と博輝が一緒に歩いているところに、佐奈子たちがやってきた
「周防先生も一緒に遊びましょう!」
佐奈子が誘った
周防は、前世での若き教育者の時を思い出していた・・・
魔物だけでなく、ヒューマン、エルフ、ドワーフにホビット、そしてゴブリンやオーガなど、前世の世界の全ての子供たちを分け隔てなく、色んなことを教え、共に遊んだ楽しい記憶を・・・
「ええ、一緒に遊びましょう」
周防は笑顔で答えた
「やった~~~先生と一緒だ!!!」
「ウォータースライダー行きましょう!」
「流れるプールも楽しそう!」
佐奈子たちと周防はプール内のアトラクションを楽しんだ
摩緒はと言うと・・・相変わらずプールサイドチェアで寝ていたのは言うまでもなかった
「摩緒は本当にマイペースね・・・」
佐奈子が苦笑いしながら呟いた
「でも、それが摩緒らしいよ」
博輝が微笑みながら答えた
こうして、平穏で幸せな一日が過ぎていった
前世の因縁を抱えながらも、今はただの高校生として、先生として、この穏やかな時間を大切にしていたのだった