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第13話「ゴルフ場でのディナー」

博輝と佐奈子は部活のため、一緒に下校することができなかった

摩緒は眠そうな顔で一人帰路についていた


そんな摩緒の横を、高級車がゆっくりと止まった

助手席から身なりの整った女性が降りてきて、後部座席のドアを開けた


「楠木摩緒様、柊直虎様が御父上の怪我と門下生たちが貴方様を襲撃してしまった事へのお詫びのディナーに招待したく、お迎えに参りました」

女性は丁寧にエスコートした


「え~~~僕は早く帰ってラノベ読んだり、ゲームしてから寝たいんで・・・・・」

摩緒は断ろうとした


しかし、女性がポケットからスマホを取り出して摩緒に見せると、摩緒の顔が急に深刻になった


「他言は無用ですよ」

女性が摩緒の耳元で囁いた


摩緒は悔しそうな顔で、女性のエスコートに従って高級車に乗り込んだ


高級車はその場から静かに離れて行った


摩緒が乗った後部座席の横には、大男が座っていた・・・摩緒を見ると、深々と頭を下げた


「すまない・・・ここまでしないと君は、直虎様に会ってくれないでしょう」

大男が謝罪した


「素直に従ったのだから、妹の実那を解放しろよ!」

摩緒は怒鳴った


「君の妹さんと、柊様の門下生のお子さんが、たまたま友達同士だったから、門下生に頼んで妹さんを招待しただけですよ」

大男は苦笑いした後、脅すような目で摩緒を見つめた


「君の態度次第では・・・」


「そうなると犯罪だよ!!!」


摩緒は唇を噛みながら大男を睨んだ


「覚悟の上ですよ・・・直虎様には多大な恩義がありますのでね」


大男は一息入れて答えた


摩緒は大男の覚悟に、これ以上何も言えなかったが、苛立ちは消えなかった


「あんたは確か“クラッシャー大岩”という格闘家だったよね?」


摩緒が問うと、大岩は照れくさそうに答えた


「ほう~~格闘ファンならともかく、一般人にも私の名を知られていたとは光栄ですね」


「僕の父から教えてもらったんだ・・・正当な戦闘スタイルで優しい格闘家だと、格闘家の一部では、あの柊直虎より支持されてると聞いたよ」


摩緒が言うと、大岩は恐縮した


「これは、これは・・・」


「でも、僕はそう思わない・・・」


摩緒はさらに続けた言った


「僕を誘うのに、妹をダシに使うなんて・・・卑怯者にしか見えません」


摩緒は苛立ちの仕返しの皮肉を言ったが・・・


「ハハハ、これは参りましたね・・・君は、どの格闘家よりも強烈なカウンターパンチを食らわせるとは」


大岩に大人の対応をされ、摩緒の苛立ちは解消されなかった


・・・・・


柊直虎の高級車は摩緒の住む街を過ぎ、山林の車道を走っていた・・・

やがて、ゴルフ場の看板が見えると、そのゴルフ場の出入り口の道を通った


「僕、ゴルフなんてしたことないよ」

摩緒が言うと、大岩が答えた

「ご安心ください、直虎様は、ゴルフプレイ場の真ん中でディナーをおもてなししたいようです」


「は?」

摩緒は首を傾げた


「直虎様は、奇抜なことをするのが好きなもので」

大岩が困惑な表情で答えた


やがて高級車は、ゴルフの受付施設を越え、そのままゴルフプレイ場へと芝生を踏みならしながら走っていく


「え〜〜こんなところ、走らせて大丈夫なの?」

摩緒が絶叫した


「このゴルフ場は廃場になってるから大丈夫です」

大岩が冷静に対応した


高級車は、ゴルフプレイ場の真ん中に止まった


摩緒たちが降りると・・・大きな豪華なパラソルの刺さった高級なテーブルがあった、その上には既にナイフとフォークと皿が並べられている


2人分の高級チェアが置かれていて、テーブルから少し離れたところには、移動式のダイニングキッチンがあり、コックが調理をしていた


そして、片方のチェアには、優雅に紅茶を楽しんでいる柊直虎が座っていた


「あら、ボーイいらっしゃい・・・わたくしのお詫びのディナーに来てくれて嬉しいわ」


高級車に乗っていた女性が、片方のチェアを動かした


「どうぞお座りになってください」

女性が摩緒をエスコートし、摩緒は周りをキョロキョロしながら席についた


「ボーイのお迎えご苦労さま、あとは、わたくしとボーイで楽しむから、下がって良いわよ」

柊直虎が大岩たちに指示すると、大岩たちは高級車に乗って去って行った。


・・・・・


ゴルフ場を出た高級車の中では、助手席に座る女性が大岩に質問していた


「あの摩緒って子、本当に魔帝様の生まれ変わりですの?・・・どう見ても、どこにでもいる高校生にしか見えないのですが」


「俺も、楠木摩緒の近辺調査した結果を見た時は、本当に魔帝様の生まれ変わりなのかと・・・寝る癖がある以外は、あまりにも魔帝様の性格と真逆だったからな・・・流石の直虎様も唖然としてたよ」


大岩が答えた


「それで、ゴテ・・・大岩さん自ら直接、楠木摩緒に会ったのですね」


運転手の格闘家が言った


「そうだ・・・楠木摩緒は間違いなく魔帝様の生まれ変わりだ・・・少しばかりの魔帝様の覇気が漏れていたのでな」


大岩が答えると、女性と運転手は顔面蒼白になった


「俺の推測通りだ・・・楠木摩緒の身体には、摩緒本来の人格と魔帝ヒルガデント様の人格の2人が存在しているのだよ・・・その事を直虎様にアドバイスして良かったよ」


大岩は胸を撫で下ろした


「今度は、龍王と勇者の足止めの準備をするぞ」


大岩はスマホを取り出し、その準備の指示をした


・・・・・


一方、摩緒と柊直虎とのディナーでは、高級な材料を使ったフランス料理が提供されていた


柊直虎は摩緒の父親との対戦について熱心に語っていた


「貴方のお父様は本当に素晴らしい格闘家でしたわ・・・あれほど私を楽しませてくれた相手は久しぶりでした」


しかし摩緒は妹のことが心配で、食事にも手をつけず、柊直虎の話が耳に入っていなかった


摩緒の様子に気がついた柊直虎は言った

「ボーイの妹さんなら、とっくに門下生の家から出て自分の家に帰ったわよ」


摩緒は慌ててスマホを取り出し、妹の無事を確かめた


メッセージを確認すると、実那が元気に家に帰っていることが分かり、ホッと安堵した


そのタイミングで、柊直虎が核心を突いた


「ボーイ、貴方の身体に2つの人格があることを認識してるの?」


「え?」

摩緒は首を傾げた


柊直虎の突然の質問に、困惑の表情を浮かべていた


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