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第14話「生死を賭けた戦い」

廃ゴルフ場で、野外ディナーしている摩緒と“お姉系格闘家”柊直虎


「ボーイ、貴方の身体に2つの人格があることを認識してるの?」


柊直虎の質問に、摩緒は心当たりがあったが、あえて知らないふりをした


「え?何のことですか?よく分からないんですが・・・」


摩緒は誤魔化した


柊直虎は納得するふりをして微笑んだ


「そうね、分からないわよね」


その瞬間!!!!


『ガシャン!!!』


柊直虎がテーブルを蹴り上げた

料理や食器が宙に舞い、一瞬の出来事に摩緒は身動きが取れなかった


柊直虎が摩緒に向かって拳で飛びかかってくる


摩緒は無意識に身体ごとチェアを倒し、柊直虎の攻撃を避けながら、柊直虎の腹部に蹴り上げを決めた


「ぐはっ!」


柊直虎は吹き飛ばされた

摩緒はその間に起き上がり、柊直虎に向けて構えを取った


吹き飛ばされた柊直虎は腹部を押さえながら立ち上がった


「あら、なんて素晴らしい反射神経なのかしら」


柊直虎は再び摩緒に向かってきた


柊直虎の右ストレートが摩緒の顔面に向かって飛んだ


摩緒は首を反らして避け、すかさずカウンターの左フックを放つ


柊直虎は上体を沈めてそれを避けると、摩緒の腹部に向けて膝蹴りを仕掛けた


摩緒は両手でガードしながら後退する


『ドガッ!バキッ!』


柊直虎の手加減のない蹴りが摩緒の腕に決まった


摩緒は卓越した身体能力で受けと躱しで凌いでいた


柊直虎が左の回し蹴りを放つ


摩緒はダッキングでそれを避け、柊直虎の軸足に向けてスイープキックを仕掛けた


柊直虎は跳躍してそれを避けると、空中で摩緒に向けて踵落としを放つ


摩緒は横に転がってそれを避けた


「貴方の格闘センスは、お父様以上ね」


柊直虎は褒めながら摩緒を攻めた


「何故僕が、貴方と戦わなければならないんだ?」

摩緒は疑問を叫んだ


「それは、ボーイが強いからよ!」

柊直虎は喜び勇んで叫び


摩緒の僅かな隙をついて腹部にストレートを決めた


「がはっ!」

強烈なパンチを食らい、摩緒は腹部を抱えて痛みに堪えた


柊直虎は摩緒を見下ろしながら、能面のような表情で言った


「いつまで受け躱しするの、そのままだと犬死よ」


「犬死って、一体・・・」

摩緒は驚愕の表情を見せた


「言葉通りよ」

柊直虎は素で答えた


「それって、人殺しじゃ・・・」

摩緒が反論すると、柊直虎は不敵に笑んだ


「それは大丈夫よ・・・わたくしが貴方を殺しても、逆に貴方が殺しても無かったことになるから」


「無かったことにできるわけないじゃん!」


摩緒は声を張り上げた


柊直虎は肩をすくめた


「これを言うと陰謀論と思われちゃうけど、この廃ゴルフ場のオーナーがね、この国の権力を握っちゃってるの・・・だから、わたくしまたは貴方が人を殺したことが無くなっちゃうの」


「そ、そんな〜〜」

摩緒は唖然とした


「だから、貴方が生きたかったら、わたくしを殺さなければいけないの・・・助かりたいのなら」


柊直虎は再び摩緒に向かって拳を振った


「ボーイの中の『凶暴な魔帝ヒルガデント様』に代わってもらいなさいよ」


「そんな厨二病嫌だ!」

摩緒は柊直虎のパンチを寸でで躱した


「僕は、殺したくないし殺されたくない!」

摩緒はゴルフプレイ場にあるすべての物体を操った


パラソル、チェア、食器、調理器具・・・あらゆるものが宙に舞い、柊直虎の攻撃を防ぎながら彼を攻め立てた


『ドガガガガ!』


柊直虎は飛んでくる物体を拳と蹴りで破壊しながら後退した


「人間のままでも魔法使えたのね・・・わたくしも最初から使えば良かったわ」

柊直虎はにたりと呟いた


その瞬間、柊直虎の拳と足に雷の魔法が纏われた


『バリバリバリ!』


雷を纏った拳が摩緒の操る物体を次々とぶち破っていく


「嘘でしょ・・・僕と同じように異能力使えるなんて」


摩緒は驚いたが、もう生きるか死ぬかの瀬戸際に考える暇などなかった


摩緒は異能力と格闘技術を駆使して柊直虎と対戦した


しかし、格闘技術と経験が段違いの柊直虎に押され、ついに雷撃の拳を食らって気絶してしまった


「あらまあ〜〜なかなか魔帝様に代わらないわね」

柊直虎は呆れた


倒れた摩緒を見下ろしながら


「ボーイが、魔帝様に代わろうとしないのかしら・・・」


「それとも〜〜魔帝ヒルガデント様が『男になった・獣王ライハイル』の強さに怖気づいて、代わろうとしないのかしら」


柊直虎は小馬鹿にして、気絶した摩緒を挑発した


一方、気を失った摩緒の脳内では、勇者の魔帝ヒルガデントへの封印である鎖に絡まれ、身動きの取れない魔人シルエットの魔帝の意思が苦悶していた


「奴が気絶したチャンスに・・・くそ、あの勇者め」

と、毒付きながら、必死に“鎖の封印”を解こうと藻掻いていた


いつまでも意識が戻らない摩緒に、柊直虎は溜息をついた


「まだ、魔帝様の覚醒ができてないようね」


「まだ、ボーイを殺すまでもないわね・・・魔帝様、命拾いしたわね、今どんな気持ちなのかしら?・・・“生き恥を晒される”気持ちって?」


柊直虎は蔑みの目で摩緒を見下ろした


摩緒の脳内では、魔帝が“封印の鎖”を引き千切ろうと藻掻いていた


「く、くそ〜〜舐めやがって、あの野郎ライハイル~~~今に見てろよ」


魔帝は闇の波動を上げながら怒りを爆発させていた


「もう戦う気が失せたわ」

柊直虎は意識のない摩緒から踵を返し、背を向け、調理していたコックに向かった


「スマホ貸してくれないかしら?」

コックがスマホを貸そうとした時・・・


「獣王ライハイル様、何故、魔帝ヒルガデント様を討たないのですか?」


上空から数人の、羽根が生え鳥の頭部をした人型の者・・・鳥人と呼ばれる魔物たちが降りてきた


・・・・・


一方、博輝と周防は・・・・


摩緒がまだ帰宅しておらず、摩緒の家族から柊直虎とのディナーに行っていると聞き


魔帝の覚醒を止めようと柊直虎の格闘ジムに向かった


しかし、途中で大岩と出会った・・・摩緒を送った女性と運転手も同行していた


「龍王様に勇者よ・・・貴方がたに、獣王様と魔帝様との対決の邪魔はさせない」


大岩がいきなり『転移の魔法』をかけた


周防は、大岩・女性・運転手と共に郊外の廃ショッピングモールへ


博輝は、郊外の太陽光パネルが敷き詰められた広大な山岳に移動させられた


博輝の上空には、プロレスラー、ラガーマン、そして力士と言ったスポーツマンで、大岩と並ぶ3人の大男たちが待ち構えていた


・・・・・


廃ショッピングモールで、大岩たちと対峙する周防


「ゴテリア殿、緒方君・・・エルダはどうしたのですか?」


周防が問うと、大岩は答えた


「貴女様とは別の場所に移させていただきました」


「わたしと、エルダの戦力を分断させたのね・・・返って足止めを容易に突破されるのではないですか?」


周防が反論すると、大岩は微笑んだ


「ヒョーデル様は何て慈悲のあるお方でしょうか・・・それには心配には及びませんよ」


大岩は周防を褒め称えた


「獣王軍に『三重騎』が存在していたのをご存知でしょう?」


「な、何ですと!!!!」

周防は驚愕した


『獣王軍・三重騎』とは・・・象型、犀型、河馬型の獣人たちで、それらは巨体を誇り


その3人が連携すると、“獣王ライハイル”さえ勝てない戦闘力を有すると謂われていた魔物たちのことである


その事を知っている周防が驚くのも無理はなかった


「あの3人を説得させるのに苦労しましたよ・・・前世だと命令すれば良かったが、今世では関わりのない者同士だからね」


大岩が苦労話をした


「だが、勇者が転生していると聞いたら、3人とも目の色を変えて引き受けてくれましたよ」


「あの者たちは、生粋の戦人いくさびと・・・“生き恥を晒す”ことが、どれだけの屈辱だったのか、勇者は理解していなかったらしいですね」


大岩は苦笑いした


「我々は、決して手を抜かない!!!全力で貴女様を足止める」


女性は“黄金のピューマ型”の獣人へ・・・


運転手は“蒼き狼型”の獣人へ・・・


そして大岩は、漆黒のたてがみと、漆黒の毛並みをした、全身に『疾風の波動』を纏った獅子型の獣人へと変態した


「ライハイル様と私は『雷神獣と風神獣』と呼ばれ、“前世の世界”を跋扈したものだ・・・」


大岩は前世を懐かしみながら呟いたのだった


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