廃ゴルフ場で、魔帝化した摩緒と獣王ライハイルがどちらも譲らず一進一退の戦いが続いている
その離れた上空で、大手ITベンチャー企業のCEOで、日本の政治にも口出しできる団体・
「ほう〜〜中々やるやん魔帝ヒルガデント様、人間状態で、“男”に転生した獣王ライハイルとためはるなんてな」
「それにしても魔帝様・・・なんで”魔人形態”になれへんのや、そしたら、ライハイルに勝てるかも知れへんのにな」
翼王は疑問視していた
・・・・・
上空から翼王フェニブルが観戦されているのも知らずに、闘いに夢中になっている摩緒とライハイル
両者は一旦距離を置いた
「魔帝様、いい加減“魔人形態”になったらどうです?」
ライハイルが突っ込んだ
「それは余が決める事・・・お前如きに魔人形態など要らん」
魔帝化した摩緒はライハイルに攻撃を仕掛けた。
「はああ!」
摩緒は闇の波動を足に纏わせて低い姿勢からスイープキックを放った
ライハイルは跳躍してそれを避けると、空中から雷を纏った踵落としを繰り出した
摩緒は両腕を交差させてガードしたが、その威力で地面にめり込んだ
「闇帝昇拳!」
摩緒は地面から立ち上がりながら、闇のオーラを纏ったアッパーカットをライハイルの顎に放った
ライハイルは後ろに仰け反ってそれを避けると、素早く体勢を立て直して雷の魔法を発動した
「雷光閃!」
雷の光線が摩緒に向かって放たれた
「暗黒旋風!」
摩緒は闇の竜巻を作り出してそれを相殺した
何手か拳、蹴り、魔法の攻防が続いていた・・・
ライハイルが摩緒の隙をついて蹴りを食らわせた
「雷鳴蹴!」
摩緒は遠くへ飛ばされ、地面に転がった摩緒を見下ろしながら、ライハイルが忠告した
「いくら魔力・体力が有り余っても、高校生の身体では、わたくしには勝てないわよ」
魔帝化した摩緒は黙ったまま、ライハイルを睨んでいた
ライハイルはハッとした顔で突っ込んだ
「まさか、魔人形態になりたくても成れないの?」
「だ、黙れ〜〜」
摩緒が怒鳴った
ライハイルはぷっと頬を膨らませ
「あら〜〜図星なのね〜〜」
と、笑い出した
「オマエ〜〜絶対に殺す」
摩緒が怒り狂ってライハイルに立ち向かった
ライハイルは不敵な笑みで応えた
「高校生だからって手加減はしないわよ」
二人はそれぞれの魔法を纏った拳を突き合わせた。
『ドォォォォン!』
突き合った拳の波動が、周りの木々を激しく揺らせた
『ガキガキガキ!』
激しい攻防が始まったが、やがて摩緒がライハイルに押され始めた
「どうしたの?ヒルガデント様、これが限界なの?」
ライハイルの拳が摩緒の顔面にヒットした
『バキッ!』
摩緒は遠くへ吹き飛ばされた
頬を拭きながら立ち上がる摩緒を、ライハイルは冷淡な目で見つめた
「ヒルガデント様、前世では、わたくしがメスだからって、手加減していたでしょ」
「それがどれだけ屈辱だったか・・・だから、わたくしは、貴方が高校生の身体だからと言って手加減はしないわ」
ライハイルは怒りの最大級の雷魔法の球を作り、拳に纏わせた
『バリバリバリバリ!』
「これでヒルガデント様にトドメを刺すわよ、さようなら」
ライハイルが摩緒に向かって強襲した
摩緒はニタっと笑った
「だからどうした」
摩緒は闇の覇気を極限に漲らせた
『ゴゴゴゴゴ・・・』
「な、何よ、この強大な覇気は」
ライハイルが驚愕した
摩緒は闇の拳を地面に叩きつけ、土埃を起こしてライハイルを目眩ませた
「ど、何処なの」
ライハイルが目を拭きながら辺りを見渡した時・・・
「ここだ、ライハイル」
『バキィィィ!』
闇の拳がライハイルの顔面にヒットし、彼を吹っ飛ばした
「くっ!!!」
立ち上がろうとするライハイルの腹に、摩緒の闇の魔法を纏った蹴りが決まった
『ドガァァン!』
ライハイルは空中に舞い上がった
摩緒も飛び跳ね、闇の渦を手のひらに作り出した
「暗黒渦動!」
その渦をライハイルの腹に押し付けて放出し、その勢いでライハイルは仰向けの状態で地面に叩きつけられた
ライハイルは起き上がろうとしたが、余りの苦痛に身体が言うことを聞かなかった
摩緒は片足をライハイルの胸に踏みつけ、冷たい目で見下ろしていた
「こ、これほど強大な力を・・・何故最初から・・・使わなかったの?」
ライハイルが力無き声で問うた
「どう戦おうが余の勝手だろ、お前たちに言われる筋合いは無い」
摩緒は勝ち誇った笑みで答えた
「ライハイルよ、よくここまで余を追い詰めた、素晴らしかったぞ・・・何か遺言はないか?」
摩緒がライハイルに問うた
ライハイルは晴れ晴れとした笑みで答えた
「この世界で、本当に悔いの無い戦いが出来たわ・・・すべてヒルガデント様のおかげよ・・・」
「そうか」
摩緒がライハイルにトドメを刺そうとした時・・・
「柊直虎さんを殺したら駄目でしょ」
突然、摩緒本人が出てきてトドメの手を止めた
「ガキ、邪魔するな」
「もう戦いが終わったのだから、僕の身体を返せ」
「この身体は余のモノだ」
摩緒の脳内で、魔帝と摩緒の言い合いが始まった
「だから僕の身体だって言ってるでしょ!」
「何を言う、余が先に住んでいたのだ」
「先住権なんてないよ!楠木摩緒の身体なんだから!」
「うるさい!余は魔帝だぞ!」
「だから何?高校生の身体でイキってもカッコ悪いだけだよ」
「カッコ悪いだと!?この余が!?」
「そうだよ!厨二病全開で恥ずかしいよ!」
「厨二病ではない!余は本物の魔帝だ!」
「はいはい、分かったから身体返してよ」
「返さん!」
「返せー!」
いつの間にか、摩緒はライハイルから離れて一人でぶつぶつ言いながら手をバタバタと振り回していた
ライハイルは上体を起こし、まるで一人芝居をしている摩緒の様子に目が点になった
「・・・え?」
しばらくしたら、ライハイルはくすっと笑った。
「あら、可愛いわね・・・」
・・・・・
一方、上空で観戦していた翼王フェニブルは感心していた
「おいおい・・・人間の状態で、あの獣人形態のライハイルを、しかも男に転生した者を倒すか・・・益々底が見えへんな、魔帝ヒルガデントよ」
「もしかしたら、この世界の危機を救えるかも知れへん」
翼王は、顎を擦って考え事していたら、何処からか強大な覇気を感じ取り
「おっと・・・退散するとしまっか」
転移の魔法で、その場から消えた
・・・・・
同時に、ライハイルと摩緒の前に博輝たちが現れた
脳内で魔帝と摩緒が言い争って、傍から見て一人芝居をしている摩緒と・・・
人間に戻った柊直虎が笑っている様子に・・・
博輝と周防、大岩と運転手の格闘家、女性格闘家はポカーンとしていた
「えーっと・・・」
博輝が困惑し
「楠木君・・・大丈夫?」
周防が心配そうに声をかけた
「あ!!何で、博輝と周防先生が・・・」
摩緒が振り返ると、普通の高校生の顔に戻っていた
「兎に角・・・やっと身体が戻った・・・」
摩緒はほっと安堵し、博輝の身体に身を寄せて眠ってしまった
博輝は、摩緒の頭を撫で、優しい笑みを浮かべた
「お疲れ様、摩緒・・・」
柊直虎が立ち上がりながら微笑んだ
「本当に楽しい戦いだったわ」
「何かあったら、また呼んでよね・・・・それじゃ~~~ね」
柊直虎は、別れの手を振り、大岩たちと一緒に移転の魔法で帰っていった
こうして、魔帝と獣王の戦いは意外な形で幕を閉じた
・・・・しかし、翼王が言及した「この世界の危機」とは一体何なのか
・・・・物語はさらなる展開を迎えようとしていたのだった