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第20話「筋肉痛と権力者の密談」

獣王との闘いで、すっかり全身筋肉痛の摩緒・・・その為に学校を休んでいる


自分の部屋のベッドに寝そべりながら、摩緒は悩んでいた


「一体何なんだ、あの魔帝とか言う厨二病妄想乙は・・・」


脳内に存在する魔帝について考え込んでいると・・・


「あ〜〜もう、ゆっくりと寝れないじゃないか」


摩緒が頭を掻きむしった時、脳内に声が響いた


『それはコッチの台詞だ、余にとって邪魔な奴が、何故余の身体に存在してるんだ』


「うわ〜〜〜出た〜〜〜〜厨二病妄想乙が!」


摩緒が大声で叫んだため、下の階から母親の心配の声がした


「どうしたの摩緒、大声で叫んで」


「何でも無いよ」


摩緒は慌てて返事をした


『何かメスの声がしたが・・・』


魔帝から質問された


「メスって・・・僕の母親だよ」


摩緒が答えると、魔帝が急にしおらしく呟いた


『母親か・・・』


摩緒は、今度こそ声を出さないよう、深呼吸を行い、目を瞑り、リラックスして脳内に全集中した


「ところで、厨二病妄想乙さん、急に母親の言葉に急に大人しくなったけど、どうしたの?」


摩緒が質問すると、魔帝が訂正を求めた


『余は厨二病妄想乙ではない、ヒルガデントだ』


「それじゃ、ヒルガデントさん」


摩緒が改めると、魔帝が神妙な声で答えた


『物心ついた時には、ヒョーデルのおっさんに育てられたからな・・・母親という存在は知ってるが、どんなのかは知らん』


「そうなんだ・・・」


摩緒は悲しそうに呟いた


「母親について知りたくないの?」


『興味ないな』

何故か素直に答える魔帝


落ち着いて話したら意外と聞くんだと感じた摩緒は続けた


「君を育ててくれたヒョーデルおじさんって、どんな感じの人だったの?」


『やたらデカくムサイ筋肉質の龍人のおっさんで、余が暴れるたびに小突かれたよ』


魔帝が苦々しく答えると、摩緒は苦笑いした


「そりゃ小突かれるよ」


『何が可笑しい?』


魔帝が怒りの声を上げた


「じゃあ、ワンピースってアニメに出てくる主人公のおじいちゃんみたいな、ヒョーデルのおじさんから褒められた事ってある?」


摩緒が、怒っている魔帝を無視して聞いた


『ワンピースなんたらは分からんが・・・』


魔帝が何か考え事をしている


『そうだな・・・他人を助けたり、何か手伝ったり、勉強したりとか、余にとって嫌な事をしたら、よく褒められたな』


思い出しながら教えてくれた


「ヒルガデントさん、別に嫌な事ないじゃん、意外に良いこともしてたんだね」


摩緒が褒めると、魔帝は苦虫を噛むような声を出した


『うわ〜〜ヤダヤダ』


『ガキ相手にしてると疲れる、余はもう寝る』


魔帝が突き放した


「僕はガキじゃない、楠木摩緒だ」


摩緒が抗議すると・・・


『はいはい、もう寝るから邪魔するなガキ』


またガキと言われたので、摩緒は声を張り上げた


「僕は、く・す・の・き・ま・お!」


「摩緒、大丈夫?」

女性の声が聞こえたので、摩緒が目を開けると、目の前に心配そうに見つめる母親がいた


「ど、どうしたの?母さん」


摩緒がびっくりして聞くと、母親が答えた


「ずっと寝言言ってたわよ」


声が出ないように気を付けていたつもりが、なってなかった事に摩緒は落胆した


「あはは・・・変な夢見てたのかな」


摩緒は誤魔化すしかなかった


・・・・・


舞台が変わって、東京永田町・国会議事堂内の議員執務室


程よい筋肉質の身体つきに、キリッと精悍な顔付きの40代後半の男性の国会議員が執務デスクに座り、女性秘書から国会質疑の資料を貰い、訂正がないか見直していた


その時、ドアのノックが鳴った


「儲かりまっか〜〜」


声がしたので、議員は溜息をついた


「国会議員に儲かりまっかは無いだろ・・・入り給え」


許可すると、扇子で頭を叩きながら入ってきたのは、日本の大手企業の団体・日企連団長で、大手ITベンチャー企業CEOの小鳥遊飛鳥(たかなし・あすか)だった


「議員も商人もお金絡んだら変わりまへんやん」


小鳥遊がおべんちゃらすると、終始静かな佇まいの双子らしき姉弟の秘書も執務室に入ってきた


「皇議員、今回の参議院選挙、あんたんとこの政党が過半数割れして大変そうやね〜〜」


小鳥遊が心配そうな素振りを見せたが、皇議員は淡々と答えた


「首相があんなんだから仕方が無いだろ」


皇議員は業務を再開しようとしたが、小鳥遊はどかっとソファに座り足を組み


「ある地方で設置されてる広大な太陽光パネルが、原因不明のまま壊滅してて、マスコミやネットで、えろう大騒ぎになっとるで」


小鳥遊が話題を振ったが、皇議員は気を止めなかった


「ちょうど良かったじゃないか・・・元々、住民の反対を押し切って太陽光パネルを設置したのだからな」


「おいおい、その壊滅した原因のソースを事前に消すのに苦労したんやで・・・しかも、魔帝と獣王の決闘の舞台を御前建てしたのは、この俺なんやから」


小鳥遊が不満を漏らした


「小鳥遊・・・お前は、それ以上に、国民の血税を散々中抜きしてるではないか」


皇議員がつけ込んだ


「ちっ」

小鳥遊は何も言えず悔しがった


「まぁ、あの太陽光パネルのオーナーは、某国外資系企業だから自己責任として押し付ければ良いだろう」


皇議員が話題をまとめた後、真剣な表情で聞いた


「で、魔帝と獣王との闘いを見てどうだったのだ?」


小鳥遊はニタっと笑みをこぼし、背広の内ポケットからUSBメモリーを取り出した


「これを見れば一目瞭然や」


小鳥遊が皇議員に放り投げると、それを受け取った皇議員


「魔帝だけでなく、龍王や勇者まで転生しているんやで」


小鳥遊が説明すると、皇議員が執務デスクから立ち上がった


「それは本当なのか・・・そうだったら『この世界の危機』を救う処か、その根源を絶つ事も可能だ」


皇議員が食いついた


小鳥遊は肩をすくめながら答えた


「なんせ、只の高校教師と高校生やからね・・・そりゃ中々見つかれへんはずや・・・魔帝の転生者は、勇者の転生者の幼馴染やし、獣王の転生者で“お姉系格闘家”柊直虎と言う有名な格闘家と、魔帝の転生者の父親の試合が無かったら、ずっと分からんかったやろね」


「魔帝だけなら、あの能力を扱うのに大変な苦労をするだろう・・・だが、龍王がいれば、魔帝を上手く扱える」


皇議員が希望を見出したが


「その龍王なんやけど、今世は女性として転生してて、余り魔帝を制御出来てへんみたいやで」


小鳥遊が残念そうに“その希望”を否定した


「だが、勇者も転生している・・・魔帝の制御は、後々考えておこう」


皇議員はめげず冷静に思考を張り巡らせた


ポジティブに考える皇議員に、小鳥遊は感心していた


「龍王と勇者に接触し、正直に『この世界の危機』を話して、協力を仰ぐか」


皇議員がつぶやくと、小鳥遊が提案した


「龍王たちと接触する前に、魔帝と勇者の能力の再確認の為、反社組織として日本を裏から仕切ってる魔物たちの壊滅に利用してはどうやろ」


皇議員は即答した


「それは、良い提案だ!!!」


「前翼王スザックスと翼大公爵ホーシャル、爬副王アリゲルトを倒せば、その勢力を『この世界の危機』に活用出来る」


皇議員が思案した


「ここまで考えてるんやったら、もうすでに策は練ってるんやろ」


小鳥遊が問うと、皇議員はにやりと笑った


「あ〜~~今回は、私の部隊を使って、スザックス・ホーシャル・アリゲルトと、魔帝・勇者との諍いの種を蒔くとしよう」


小鳥遊は胸をすくいながら称えた


「すぐに策を巡らし相手を貶める・・・俺はあんたの味方で良かったで・・・皇亀一郎(すべらぎ・きいちろう)・防衛大臣、いや、爬王(はおう)ゲンブロイトよ」


「それは私の台詞だ・・・えぐい事を平気でやってのけるお前の方が、よっぽど恐ろしいわ、翼王フェニブルよ」


皇亀一郎国会議員・・・爬王ゲンブロイトが畏れるように答えた


執務室には不気味な沈黙が流れた・・・二人の権力者の密談は、やがて大きな波乱を呼ぶことになるだろう・・・


一方、摩緒は相変わらず魔帝との脳内会話に悩まされ続けていた


平穏な日常の裏で、着々と次なる策略が進行していることを、まだ知る由もなかった

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