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第21話「新任保健室の先生の正体」

摩緒のクラスだけでなく学校中で、桜井蘭菜さくらい・らなという名のグラマーで童顔の可愛い系の保健室の先生が赴任した話題が、男子生徒間で持ちきりになっている


「桜井先生、マジで可愛すぎる!」


「あの笑顔、天使だろ!」


終いには、長身でスレンダーの周防先生と比べ、周防先生派と話題の保健室の先生派に分かれる始末だった


「周防先生はクールビューティーだけど、桜井先生は癒し系だよな!」


「いやいや、周防先生の知的な美しさには敵わないって!」


女子生徒たちは、そんな男子生徒たちに呆れかえっていた


「男の子って、可愛い人や美人な人が来ると、すぐにメロメロになるんだね」


隣のクラスから遊びに来ていた佐奈子が溜息をついた


「仕方がないじゃん、それが青春だもん」


博輝が諭すと、佐奈子は微妙な笑みで返した


「意味分かんない、全然理由になってない」


博輝と佐奈子が摩緒の方を向くと、ラノベを読んで我関せずだった


二人して感心した

「摩緒ってマイペースだね」


「僕に何か付いてるの?」

摩緒がキョトンとしていたので、二人は納得した


「うん、間違いない」


・・・・・


この新しく赴任した保健室の先生の桜井蘭菜は、かつて魔帝ヒルガデントを封印した勇者一行の一人、エルフの大賢者の転生者だった


周防どころか博輝さえ見抜けないくらい巧妙に隠している


また、桜井蘭菜は、この学校には勇者、龍王・・・そして魔帝の転生者がいることを知らなかった


それは、博輝が龍王や獣王の件があったため、その類いの魔法で魔帝たちの正体を隠していたのだった


・・・・・


ある日、摩緒が“幻想の異能力”を使わずに、机に伏してぐったりとしていた


「おい、大丈夫か?摩緒」

博輝が心配になって声をかけた


「うん、大丈夫」

摩緒は返事をした


しばらくして周防の授業が始まると、周防が摩緒の異変に気づいた

「楠木君どうしたの?」


「何か知らないけど、身体が怠い」

摩緒が弱々しく返事をした


「一人で保健室に行ける?」

周防が心配そうに保健室に行くように促した


「うん、一人で大丈夫だよ」

摩緒が席から立ち上がると、ふらっと身体が傾いた


博輝がすかさず肩を貸した

「俺が、摩緒を連れて保健室に行くよ」


・・・・・


摩緒と博輝が保健室に着き、扉を開けると、丁度作業している桜井蘭菜がいた


「桜井先生、2年B組の緒方博輝です・・・同級生の楠木摩緒君が、気分がすぐれないので診て頂けないでしょうか?」


博輝が打診すると、桜井は心配そうに摩緒の額に手のひらを当てた


「凄い熱が出てるじゃないの、緒方君だったっけ、すぐにこの子をベッドに寝かせて」


桜井が指示すると、博輝は摩緒をベッドに寝かした


桜井は熱さまシートと解熱剤を持って、摩緒の救急にあたった


解熱剤を服用し、額に熱さまシートを付けた摩緒は、しばらくすると安心したのか気持ち良く寝ていた


「これって過労によるものよ・・・最近激しい運動とかしてない?」


桜井先生が博輝に質問した


博輝はすぐに獣王との闘いのせいだと思ったが、適当な解答をした


「どうでしょう・・・よくわからないですね」


「そう、ありがとう・・後は、あたしが見ておくから、緒方君は教室に戻って良いよ」


「それでは宜しくお願いします」


博輝は保健室を出た


・・・・・


桜井はしばらく摩緒の様子を見た後、執務デスクに戻り、頭を抱えた


(なんなの・・・何故、エルダとヒルガデントが一緒にいるのよ〜〜〜)

桜井は脳内で驚愕した


(いや、ちょっと待って・・・確かさっき『緒方博輝』って名乗ってたわよね?)


(まさか、あの爽やか高校生が勇者エルダ?嘘でしょ?)


(前世では、もっとこう・・・凛々しくて、威厳があって・・・)


(って、あたしも人のこと言えないか・・・エルフの大賢者が保健室の先生だもんね)


桜井は一人でツッコミを入れた


(緒方君のエルダの方は、自分の前世の事を自覚してるみたいだけど・・・)


ベッドで寝ている摩緒を見て続けた


(この子の場合、1つの魂に前世のヒルガデントの人格と、今世の新たな人格が衝突してる状態で、今は今世の人格が表面に出てる状態・・・)


桜井は冷や汗をかきながら推測した


(今は、1つの魂に、2つ人格が枝分かれしてて、魔帝本来の強大な能力が制限されてるけど、下手に統合すると、この世界が破滅する可能性がある)


(って、何よそれ!私、保健室の先生よ?精神科医じゃないのよ?)


(でも、エルフの大賢者だった頃の知識で分析すると・・・)


(上手く、今世の人格で統合すると、この世界に内在する色んな問題を解決できるだろう)


と、桜井は結論づけた


(今は、様子見で、楠木君を観察しよう・・・)


(って、これじゃあ私、ストーカーじゃない!保健室の先生が生徒を観察って・・・うわあ、職権乱用よ)


1人ボケ突っ込みしながら困惑する桜井は、最後にはため息をつき、自分の平穏な生活の為だと納得し決断したのだった


・・・・・


やがて放課後になる頃には、摩緒は熱が下がり、体調が良くなっていた


「桜井先生ありがとうございます」


摩緒は普通の高校生と変わらない謝辞で、保健室を後にした


「う〜ん、やっぱり普通の高校生だよね〜〜」


桜井が気だるそうに、椅子に凭れながらぼやいている処に、今度は周防が保健室に入ってきた


「失礼します・・・うちのクラスの生徒を診て頂きありがとうございます」


周防がお礼を言ってきた


桜井先生は口を半開きにして周防を見ていた


(はぁ〜〜〜この凛とした長身でスレンダー美女が、あのゴツくて、ムサくて、ウザい龍人のおっさんの転生者だって〜〜〜信じられへん)


桜井は周防が龍王の転生者と知って心の中で毒ついた


(前世では、ザ・男の中の漢みたい感じの・・・いや、男だったんだけど)


(それが今では、学校中の男子生徒が憧れる美人教師って・・・)


(神様って、時々とんでもないことするわよね)


(でも、確かに美人よね~~~私より背も高いし、スタイルもいいし・・・)


(って、何で私、前世の龍王と今世の容姿を比較してるのよ!)


桜井は一人で盛大にツッコミを入れていた


「桜井先生?大丈夫ですか?」

周防が心配そうに声をかけた


「あ、はい!大丈夫です!ちょっと考え事をしてました」

桜井は慌てて取り繕った


「そうですか・・・それでは、失礼します」

周防が保健室を出て行くと、桜井は再び頭を抱えた


(何よ~~~この学校、前世の因縁だらけじゃない・・・あたし、普通の保健室の先生がしたかっただけなのに・・・)


桜井蘭菜の“波乱な学校生活”は、まだ始まったばかりだった


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