摩緒のクラスだけでなく学校中で、
「桜井先生、マジで可愛すぎる!」
「あの笑顔、天使だろ!」
終いには、長身でスレンダーの周防先生と比べ、周防先生派と話題の保健室の先生派に分かれる始末だった
「周防先生はクールビューティーだけど、桜井先生は癒し系だよな!」
「いやいや、周防先生の知的な美しさには敵わないって!」
女子生徒たちは、そんな男子生徒たちに呆れかえっていた
「男の子って、可愛い人や美人な人が来ると、すぐにメロメロになるんだね」
隣のクラスから遊びに来ていた佐奈子が溜息をついた
「仕方がないじゃん、それが青春だもん」
博輝が諭すと、佐奈子は微妙な笑みで返した
「意味分かんない、全然理由になってない」
博輝と佐奈子が摩緒の方を向くと、ラノベを読んで我関せずだった
二人して感心した
「摩緒ってマイペースだね」
「僕に何か付いてるの?」
摩緒がキョトンとしていたので、二人は納得した
「うん、間違いない」
・・・・・
この新しく赴任した保健室の先生の桜井蘭菜は、かつて魔帝ヒルガデントを封印した勇者一行の一人、エルフの大賢者の転生者だった
周防どころか博輝さえ見抜けないくらい巧妙に隠している
また、桜井蘭菜は、この学校には勇者、龍王・・・そして魔帝の転生者がいることを知らなかった
それは、博輝が龍王や獣王の件があったため、その類いの魔法で魔帝たちの正体を隠していたのだった
・・・・・
ある日、摩緒が“幻想の異能力”を使わずに、机に伏してぐったりとしていた
「おい、大丈夫か?摩緒」
博輝が心配になって声をかけた
「うん、大丈夫」
摩緒は返事をした
しばらくして周防の授業が始まると、周防が摩緒の異変に気づいた
「楠木君どうしたの?」
「何か知らないけど、身体が怠い」
摩緒が弱々しく返事をした
「一人で保健室に行ける?」
周防が心配そうに保健室に行くように促した
「うん、一人で大丈夫だよ」
摩緒が席から立ち上がると、ふらっと身体が傾いた
博輝がすかさず肩を貸した
「俺が、摩緒を連れて保健室に行くよ」
・・・・・
摩緒と博輝が保健室に着き、扉を開けると、丁度作業している桜井蘭菜がいた
「桜井先生、2年B組の緒方博輝です・・・同級生の楠木摩緒君が、気分がすぐれないので診て頂けないでしょうか?」
博輝が打診すると、桜井は心配そうに摩緒の額に手のひらを当てた
「凄い熱が出てるじゃないの、緒方君だったっけ、すぐにこの子をベッドに寝かせて」
桜井が指示すると、博輝は摩緒をベッドに寝かした
桜井は熱さまシートと解熱剤を持って、摩緒の救急にあたった
解熱剤を服用し、額に熱さまシートを付けた摩緒は、しばらくすると安心したのか気持ち良く寝ていた
「これって過労によるものよ・・・最近激しい運動とかしてない?」
桜井先生が博輝に質問した
博輝はすぐに獣王との闘いのせいだと思ったが、適当な解答をした
「どうでしょう・・・よくわからないですね」
「そう、ありがとう・・後は、あたしが見ておくから、緒方君は教室に戻って良いよ」
「それでは宜しくお願いします」
博輝は保健室を出た
・・・・・
桜井はしばらく摩緒の様子を見た後、執務デスクに戻り、頭を抱えた
(なんなの・・・何故、エルダとヒルガデントが一緒にいるのよ〜〜〜)
桜井は脳内で驚愕した
(いや、ちょっと待って・・・確かさっき『緒方博輝』って名乗ってたわよね?)
(まさか、あの爽やか高校生が勇者エルダ?嘘でしょ?)
(前世では、もっとこう・・・凛々しくて、威厳があって・・・)
(って、あたしも人のこと言えないか・・・エルフの大賢者が保健室の先生だもんね)
桜井は一人でツッコミを入れた
(緒方君のエルダの方は、自分の前世の事を自覚してるみたいだけど・・・)
ベッドで寝ている摩緒を見て続けた
(この子の場合、1つの魂に前世のヒルガデントの人格と、今世の新たな人格が衝突してる状態で、今は今世の人格が表面に出てる状態・・・)
桜井は冷や汗をかきながら推測した
(今は、1つの魂に、2つ人格が枝分かれしてて、魔帝本来の強大な能力が制限されてるけど、下手に統合すると、この世界が破滅する可能性がある)
(って、何よそれ!私、保健室の先生よ?精神科医じゃないのよ?)
(でも、エルフの大賢者だった頃の知識で分析すると・・・)
(上手く、今世の人格で統合すると、この世界に内在する色んな問題を解決できるだろう)
と、桜井は結論づけた
(今は、様子見で、楠木君を観察しよう・・・)
(って、これじゃあ私、ストーカーじゃない!保健室の先生が生徒を観察って・・・うわあ、職権乱用よ)
1人ボケ突っ込みしながら困惑する桜井は、最後にはため息をつき、自分の平穏な生活の為だと納得し決断したのだった
・・・・・
やがて放課後になる頃には、摩緒は熱が下がり、体調が良くなっていた
「桜井先生ありがとうございます」
摩緒は普通の高校生と変わらない謝辞で、保健室を後にした
「う〜ん、やっぱり普通の高校生だよね〜〜」
桜井が気だるそうに、椅子に凭れながらぼやいている処に、今度は周防が保健室に入ってきた
「失礼します・・・うちのクラスの生徒を診て頂きありがとうございます」
周防がお礼を言ってきた
桜井先生は口を半開きにして周防を見ていた
(はぁ〜〜〜この凛とした長身でスレンダー美女が、あのゴツくて、ムサくて、ウザい龍人のおっさんの転生者だって〜〜〜信じられへん)
桜井は周防が龍王の転生者と知って心の中で毒ついた
(前世では、ザ・男の中の漢みたい感じの・・・いや、男だったんだけど)
(それが今では、学校中の男子生徒が憧れる美人教師って・・・)
(神様って、時々とんでもないことするわよね)
(でも、確かに美人よね~~~私より背も高いし、スタイルもいいし・・・)
(って、何で私、前世の龍王と今世の容姿を比較してるのよ!)
桜井は一人で盛大にツッコミを入れていた
「桜井先生?大丈夫ですか?」
周防が心配そうに声をかけた
「あ、はい!大丈夫です!ちょっと考え事をしてました」
桜井は慌てて取り繕った
「そうですか・・・それでは、失礼します」
周防が保健室を出て行くと、桜井は再び頭を抱えた
(何よ~~~この学校、前世の因縁だらけじゃない・・・あたし、普通の保健室の先生がしたかっただけなのに・・・)
桜井蘭菜の“波乱な学校生活”は、まだ始まったばかりだった