昼休み、校舎の奥――静まり返った教育指導室の扉が、静かに閉まる。
ガチャン、と鍵がかかる音が、空気を震わせた。
「――わたくしに呼ばれた理由、理解してらして?」
机の上にヒールを載せ、椅子に優雅に腰かけた久遠リサが、腕を組んで見下ろす。
褐色の肌に、艶やかな金髪。シャツの隙間から覗く谷間が、わざとらしく揺れている。
ヤンキーと呼ばれるには、あまりに品がある――だが、その眼差しは冷酷だった。
彼女の前に座らされた拓真は、唇を震わせながら、机の上のノートに目を落とす。
「そ……それは! なぜお前がもっている!?」
「拾ったの。偶然に。ねえ――素晴らしいわ、あなたの感情の毒がこんなにも整然と記されているなんて」
ノートには、嶺への妬み、陰口、見下し、侮辱、侮蔑――卑劣で醜悪な言葉の数々が記されていた。
「これ、どこに提出されるか。……想像は、おできになります?」
「や、やめてくれ……」
リサは笑った。高貴な余裕の笑み。
「一、風紀委員に提出――あなたの素行が全校に知れ渡ります。
二、生徒会長に提出――退学も視野に入りましょう。
三、彼女に……提出したらどうなるか、想像してみて?」
「いっ……!」
「いやだなんて、通じませんわよ? それとも――お願いすれば、許してもらえるとでも?」
ゆっくりと、机を降り、彼の前に膝をつく。
指先で顎を取り、目を覗き込む。
「わたくし、優しい女ですの。仕事さえしてくれれば、指導に切り替えて差し上げてもよろしくてよ?」
「何を……させる気だ?」
そう言いながら、相手の顔を睨みつける。
「これよ……」
一瞬の間を置き、写真付きの紙を鋭い動きで相手の目の前に突き出す。その紙には、衝撃的な事実が記されている。
「ッ! できるわけ――!」
「できないの? なら提出……」
「やるから、やればいいんだろ!」
「んー? 聞こえないわ。もっと、大きな声で」
「……す」
「やります? 違うでしょ? ほら、言いなさい。ゆっくり……い・き・ま・すって」
頬に唇が触れそうな距離。
揺れる胸元。襟元にすべり込む指先。
息が、熱い。
リサは笑った。唇をなめるように、いやらしく。
ヒールを机に乗せ、脚をゆっくり広げる。
スカートの奥が、彼の視界にかすかに映る。
囁きは耳元。甘く、堕ちる音色。
リサの指先が、彼のシャツの第一ボタンをそっと撫でた。
「……イケないの? ふふ、ホントは……イキたくてたまらないんでしょう?」
吐息がかかる。汗がにじむ。
彼女の膝が拓真の太ももに乗る。
逃げられない。香水と女の熱が、脳を痺れさせる。
「イキたいなら……言いなさい。お願いします、イかせてくださいって」
「っ、ちが……っ、勝てるわけないんだよ、アイツに……ッ!」
リサの瞳が細まり、彼の耳元で囁く。
「じゃあどうするの? このまま潰れるの? 誰にも助けてもらえず、腐っていくの?」
「……」
「言って。行きます。ほら、お願い」
「……」
「じゃあ、これ――放送室に持っていくしかないわね」
「……い……行きます! 行きますから!」
「もっと、大きな声で! 名前も」
「拓真、イキまぁぁぉぁす!!」
「ふふ……そう、それでいい子」
リサはノートを閉じ、くいっと彼のネクタイを引き寄せる。
「じゃあ……始めましょうか。特別指導を。お姉様の命令は、絶対」
耳元での甘いささやきに彼は、腰を抜かしていた。