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 ──ドガッ!!


 盛大に転んで地面に倒れた俺。走馬灯が見える。レッツゴーEDしちゃってるよ。

下半身の感覚が喪失しているぅ!

宮沢はスカートを押さえつつ、無表情でスマホを取り出す。


「通報、案件ですね」

「違う違う違う違う!!! 事故だから!! これは不可抗力の悲劇だから!!!」

「問答無用」


 冷たく通報ボタンに指をかける宮沢。


「待って! 俺だって好きでこんなことしたわけじゃ──」

「……」


 ジト目で見下ろされる。


「もしかして、無口クールキャラだったの、もう忘れました?」

「……」


 一瞬だけ黙った俺は、

次の瞬間──


「フッ……」


 血だらけで、ニヤリと笑った。


「──いいさ。仮初のマスクを脱ぎ捨てた今、俺は真の姿を解き放つ……!」


「無理して痛いですね」


 即死。それでも俺は立ち上がった。


「俺のエッセンスは、闇に溶けるダークフェザー……!!」

「もう黙ってくれます?」


 宮沢はため息をつくと、言った。


「──来週の公式試合。あなたが勝てば、今回の件は水に流します」

「ま、マジで!?」

「負けたら──」


 宮沢が指をパチンと鳴らした。    


『オープン・ザ・ワールド!』


 次の瞬間、どこからか爆音のファンファーレとともに、

俺の頭上に謎の金色スポットライトが降り注いだ。


「──中庭ステージで、公開告白をお願いします」

「いや! 急に公開処刑感やめろ!!!」

「安心してください、台本はもう作ってあります」


 差し出された台本には、

『吉田新平! すきだぁぁ!』とか書かれていた。


「類はホモを呼ぶ」

「勝手にヒロイン像捏造するのやめてくんない?」

「それと──」


 宮沢は涼しい顔のまま、さらなる追撃を放ってきた。


「ついでに、学校スポンサーの【ヌルヌルランド】の広告にも出演してもらいます


 思わず叫ぶ俺。


「ちょっと待て! ヌルヌルランドって、あの……あの、

 クソどうでもいい特産ヌルヌル海藻押しの、

 ドロドロスライダー施設が売りの──」


「はい。あなたにはそのヌルヌルファイト!カップル編に、主演していただきます」


「なんでだよォォォ!!!」

「安心してください。ペアはもちろん、吉田君です」

「やだああああああああああああああ!!!!」


 絶望してのたうち回る俺を見下ろして、宮沢は冷静に告げる。


「すでに申請は通っています。出演料はヌルヌル海藻一年分です」

「いらねぇよそんなもん!!!!」


 そのとき。

不意にバランスを崩した俺が、ツルッと足を滑らせ──


 ド テ ッ


 ──メインフェーズ2! ラッキースケベ発動。


「──」


 絶妙なタイミングで宮沢の胸にダイブ。

ヌルッとした感触が手に伝わった。


「って、ヌルヌルしてるうううううううう!!!!???」

「早速、スポンサー製品を体験していただきましたね」


 こめかみに血管うきでてるよぉと考えるつかの間、アイアンクローされる。


「頭砕けちゃうぅ! やめてぇ!」

「ところで、さっきから無口キャラどころか、

あなたのキャラ設定、完全に崩壊してますよ?」


「あ、あ、アアアアア!」


 軋む頭蓋骨。


「あ、そうそう、対戦相手はこの方です」

「み、みえな、いから……手を放して……」

「西園寺拓真、1年3組、実力テスト学内3位」


 ゴミ箱へ投げ飛ばされる。なんだこの怪力。


「得意とする戦い方は、パーミッション……、性格の悪い人間です」

「人相悪すぎだろ! なんで舌だしてんのコイツ」

「写真部に協力してもらいました。ちなみに、あなたの写真はこれです」


 フルチンだった。


「なんでこの写真なんだよ!」

「よくとれてますよね?」

「モザイクじゃねえか!」

「仕様ですよね?」


 なに、きょとんとしてんの、この女。


「犯罪者……未成年。せめての配慮です」

「配慮になってねぇよ!」

「アイデンティティですよね?」


 遊ばれる顔写真、もとい下半身。


「人の下半身で遊ぶんじゃねえ!」

「大丈夫です。形だけです」

「形だけってなんだよ!! 俺のプライドズタズタだよ!!」

「もともと無口キャラが崩壊してる時点で、手遅れですよ」


 ズタボロである。

涙目で叫ぶ俺を無視して、宮沢は三つ編みを翻し、ひらりと立ち去っていく。

夕焼けが、やけに滲んで見えた。


──俺は……

この地獄みたいな運命に……

抗えるのか……!?


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