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第34話

 修道院を包んだ炎が消え去り、リーゼリットたちの前に現れたアークスとロザリアの姿に、安堵の息が漏れた。

 しかし、戦いはまだ終わっていない。

 「浄化の光」のローブの男たちは、驚きと怒りに顔を歪めながらも、再びリーゼリットたちに襲いかかろうとしていたのだ。


 アークスは剣を抜き、ロザリアは護身用の短剣を構える。

 リーゼリットも、自分の手のひらから炎を呼び出し、マーベル、ユリア、ローラもそれぞれ水、土、風の力を操り、応戦する。

 四人の魔女の力が修道院の空間に満ち、その場にいる全員がその圧倒的な力に気圧された。


「逃がすか!」


 その時、修道院の入り口から、満身創痍のシリウスが駆け込んできた。


「間に合ってよかった!」


 彼の背後からは、シリウスの隠密部隊が次々と現れ、「浄化の光」の者たちを制圧していく。


「シリウス!? 大丈夫なの!?」


 満身創痍の姿に驚くリーゼリット。

 直ぐに駆け寄る。


「ああ、何とか。だが、奴らは想像以上に手強かった。君たちが無事でよかった」


 シリウスは息をあげつつ、リーゼリットたちの無事を確認すると、その表情に安堵を浮かべた。

 隠密部隊の精鋭と、魔女たちの協力により、「浄化の光」の者たちは次々と捕らえられていく。

 リーダー格のローブの男も、アークスとシリウスの連携によって動きを封じられ、ついに拘束された。


「これで……終わりなの?」


 ローラが震える声で呟いた。

 炎に包まれ、命の危機に瀕した彼女たちの瞳には、まだ恐怖の色が残っていた。

 リーゼリットは、三人の手をそっと握る。


「大丈夫よ。もう、何も怖くない。私たちは勝ったのよ」


 リーゼリットの言葉に、三人の少女たちはゆっくりと表情を緩める。

 彼女たちの心に、新たな光が灯っていくのが分かった。


 「浄化の光」の者たちの身柄は、アークスにより、王室の監獄へと送られた。

 捕らえられた彼らから得られた情報は、王国の闇を深く暴くものであった。

 彼らは王宮内部にまで深く根を張り、王族の一部にも影響力を持っていたことが判明したのだ。

 アークスは、この情報を元に、慎重かつ迅速に王宮内の「浄化の光」の勢力を一掃していく。



 翌日は快晴であった。

 一夜をシリウスの要塞で過ごしたマーベル、ユリア、ローラ達は、シリウスとリーゼリットの案内で、アークス、ロザリア、そして数名の隠密部隊と共に、嘆きの教会へと訪れた。

 教会の地下最深部に刻まれた紋章の前で、四人の少女たちは手を取り合う。


 眩い光に包まれたかと思うと、次の瞬間、大きな扉が現れた。


「これが、『森の民の世界』への扉なのね……」


 リーゼリットが呟くと、マダム・ヴィヴィアンが、いつの間にか側に立っていた。


「ええ。あなたたち『四元素の魔女』が揃いし時、この扉は開かれる。私の世代は私の以外、生き残れなかったの」


 マダム・ヴィヴィアンの言葉に、リーゼリットは胸を痛めた。マダム・ヴィヴィアンは目に薄っすらと涙を浮かべている。


 リーゼリットは三人の少女たちを見つめる。彼女たちの瞳には、故郷への憧れと、この世界に残る人々への迷いが入り混じっていた。


「さぁ、行きなさい森の民の所へ。森の民は貴女の傷を癒やし、魔法を教えてくれるわ」


 マダム・ヴィヴィアンは少女たちの肩を押す。四人は顔を合わせると、扉を開いた。


「お待ちしておりました四大元素魔女の方々、森の民の皆は歓迎します」


 待ち受けていた民が拍手で出迎えていた。


「さぁ、マダム・ヴィヴィアン様もこちらへ」


「私も良いの?」


 マダム・ヴィヴィアンは涙を拭いながら差し出された手を取った。 


「リーゼリット様も」


 そう呼ばれるが、リーゼリットは首を振った。


「私はこちらへ残ります。マダム・ヴィヴィアンの代わりに舞踏会へ行けない淑女にお節介しなきゃいけないから」


 そう笑って手を振るのだった。

 マーベル、ユリア、ローラ、そしてマダム・ヴィヴィアンも手を振り返していた。


「ありがとう」


 そう、口が動くのが分かった。


 スーッと扉は消え、そこはただの廃墟へと戻る。



「良かったのか、リーゼリット? こちらに残ると、マダム・ヴィヴィアンの仕事をしなければならないし、忙しいだろ?」


「マダム・ヴィヴィアンの代わりになれるのは私しかいないみたいだし、シリウスやアークス、ロザリアと離れたくないわ」


 そう言って笑うリーゼリット。


「お姉様、行かないでくれてありがとうございます! 愛しています、お姉様ー!」


「リーゼリット、結婚しよう。今すぐ。結婚しよう!」


「リーゼリットは俺と婚約してくれるよな??」


 唐突に始まる三人のリーゼリットの取り合い。

 懐かしい光景に思え、リーゼリットは和むのだった。





 リーゼリットは領地をエドモンド卿に任せ、シリウス、アークス、ロザリアと王都の侯爵家へ帰る馬車に揺られていた。


 「浄化の光」の勢力は弱体化したが、完全に消滅したわけではない。

 しかし、リーゼリットと彼女を支える仲間たちがいる限り、もう何者もリーゼリットを脅かすことはできないだろう。

 多くの仲間たちが、リーゼリットを支えてくれる。

 リーゼリットの新たな旅が、今、始まるのだ。

 それは、今度こそ安寧の日々を探す旅路かもしれないし、波乱に満ちた旅路になるかもしれない。

 未来は誰にも解らない。だからこそ面白い。


 リーゼリットの瞳には、かつての迷いはなく、強く、そして優しい炎が輝いていた。



「よーし、皆、王都に帰ったらダブルデートよ!」


 リーゼリットは馬車の中で、声を上げた。驚くシリウスとアークス、ロザリアである。

 今度こそ庶民的な喫茶店とやらに行ってみるんだから。

 そう意気込むリーゼリットであった。

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