光あれ。と言うのは実は最初ではなく閉めの言葉だと思っているけど、正直よくわかっていない。日曜日を知らせる言葉だと思っていたけど、日曜日に休んでいるので土曜日に言ったかもしれない。正直わからない。
『目覚めなさい』
あー、うん。これはプロローグだ。はじめましての言葉だ。私は確かに撥ねられた。トラックに?いいえ、トラックと派手に接触した自転車にバンされました。
自転車なのにバンってこれはいかに?わからないもん。ただ道路から唐突に自転車が飛んできて、私は下敷きになった。それだけは確か。
私は体を起こし、周りを見渡す。ここは見慣れた一室。でも自分の部屋でもない。
どこだろうと、見渡すけど、古い机とそれに立てかける一本のピッケル。
『お目覚めになられましたか?』
声が再び響く。部屋ではなく自分の頭の中で響いた。
「え?誰?」
『私はこの世界『ファジアス』を管理運営を行っている女神でございます』
「え…?」
ファンジアスは知っている。なんせ、私の大好きなゲーム【マインズ・ファンタジー】の舞台だから。だからか、と私は納得する。目の前に広がる景色はそのマイファン(マインズ・ファンタジーの略)のチュートリアルステージのそれだもん。
主人公はここで目覚める。
『そうです。貴女は主人公です』
「私が…?」
『手荒な真似をして申し訳ございまん』
頭の中で謝罪が広がる。何で謝るのだろうと、私の中で疑問が広がる。
『この世界は本来とは違った動きを行っています。その修正が行えるのが貴女だけだったのです』
「私だけが…」
『貴女は選ばれた存在なのです』
淡々と語るそれに私は徐々にツルハシへと手を伸ばしていった。
『この世界を巣くうバグを直してください…勇者様』
「かしこまりましたぁ!」
グンと私はツルハシを持ち上げ、高く掲げた。ツルハシは鈍く光った。そんな気がした。
頭の中に音が響かなくなり、一気に静かになった気がした。
「チュートリアルステージなら、ここから出たら…」
私は慣れた足取りで歩こうとし、部屋の隅にある姿見を見て、固まる。
いや、何で?私のベリーナイスなルックスはどこにいったの?現実であったはずのボンキュボンはそこにはなく、ずんぐりむっくりさんがお一人様。
これが私?
選択キャラのドワーフじゃん。
ソロモードとは別にオンラインのマルチモードもあるマイファン。基本的にソロでプレイする事が多い。でも、それはマルチが廃れているわけではなく普通に攻略動画とか、配信でマルチをする人もいる。
ソロがストーリーメインの為にヒューマン固定に対している。その上で広大なマップを探索していくのに対して、マルチは4種類の人種とランダムに選択された三つのステージを攻略していく。
4つの人種。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ゴブリンの4つのうちで一番不人気はドワーフ。
物理的な攻撃力や回復支援が得意なヒューマン
遠距離の武器と魔法を操るエルフ
高い器用値とアイテム保有を持つゴブリン
この三種のどれか一人でもほとんどのダンジョンが攻略可能な為にヒューマン三人とかのパーティは一般的だったほど。
そもそもドワーフの利点が鉱石を掘り出すとステータス上昇に補正が付くぐらいで、これはソロプレイの主人公の特性でもあって一見強いように思えるけど。
終盤だと馬鹿みたいに強くなれるソロとは違い、マルチは一種のローグライク。三つ目のダンジョンまでに鉱石堀りの時間を確保できないと低ステータスで厳しくなる。なので時間が必要になって、それでテンポが死んでしまう。
そもそもステータス面がヒューマンの物理攻撃と物理防御を反転しただけだし、魔法能力も高くないからエルフみたいな回復でのサポートができないのも痛い。ゴブリンみたいな器用さもない。
「どうするのよおぉおおお!!」
私は叫ぶ。
ツルハシはドワーフ専用装備。正確には武器使用としては専用になるけど、採掘アイテムなので他の人種でも使える。採掘で入手できるのは鉱石アイテムで、それを使って装備はもちろん、魔法の強化が行える。
マルチだと最初のダンジョンでの宝箱で運よく入手か、ダンジョン間で出現するショップで購入するの二つのみ。
宝箱で入手するのは難しく、渋々ショップで買って、二つ目の序盤で採掘して即強化しないといけない。
ドワーフだと初期装備なので、序盤で即強化に入れると思われがちだけど、残念ながらできない。
初期ツルハシは宝箱で取れるツルハシよりも劣っている。二回強化して、ようやく宝箱ツルハシクラス。これで宝箱で出る武器を強化可能な鉱石が採れる。
他の初期武器と同様、一から強化するよりも宝箱でツルハシが出るのを祈る方が強いのは呪いの一種だと思う。
なんなら、装備補正システムがあって、ツルハシが鎌カテゴリに入ってて、威力が器用値で左右されるのでゴブリンの方が火力が出ちゃう。ちなみにドワーフは斧カテゴリーの方がまだ火力が出る。
今持っているツルハシはチュートリアルステージ攻略後に売るなりして、斧を購入しちゃおう。
あれ?チュートリアルステージ…。
私は固まる。マルチプレイだと、チュートリアルステージは存在しない。
ロビーが作られて、そこに入ってメンバーを待つ。揃ったら、ダンジョンの入り口へと転送されて、そこで攻略開始。
「ドワーフでヒューマンのダンジョンにいるのヤバい…」
マルチは並行世界。もし、4つの人種が戦争しなかった世界線がマルチで、ソロだとヒューマンがエルフと手を組んで、ゴブリンとドワーフの連合と戦う話。
マルチだとダンジョンと呼ばれるけど、ソロだとマインズ。
マインズ・ファンタジー。炭鉱で起こる魔法なお話。ドワーフになるのは納得。だってこのチュートリアルステージは主人公が閉じ込められていた場所。
その監視役として、最初の戦う敵が私。一般ドワーフ。
私はツルハシを持ち上げると、深く息を吐いた。
自分はどっちなんだ?
一般ドワーフなら最悪。マルチで使えるキャラは解析でソロで出てくる敵をコンバートされているって動画で見たことがある。
元になるのがヒーロー種。英雄級とか言われているボスモンスターだ。
ステータスの伸びが良くて、初期ステータスが主人公と近い傾向になるのが特徴として存在している。
私はおもむろに歩く。テーブルの上には手紙は置いていない。主人公向けの手紙だからないのは当たり前。
伏線になる手紙なので本物見たかったけど。
「ス、ステータス」
私は静かにいう。
目の前にウィンドウが浮かび上がる。
///
マイ
LV:001 0%
種族:ポピュラー・ドワーフ
生存値:ERROR
体力値:50
攻撃値:60
防御値:50
魔法値:30
魔導値:30
器用値: 5
///
はい、終わった。一般ドワーフじゃん。というか、生存値がエラーって何よ?HPでエラーは流石にないじゃん。
こわ…
体力値は技を使うと消費する。これは魔法でも起きるので、MPってイメージがある。攻撃と防御は物理系のステータスで、魔法が魔法の威力が魔導で魔法への耐性が増える。
そして器用値。いわゆるラックだけど…アイテムの出現率はあんまり変わらないのがねぇ。
乱数に置いて有利な数字が出る確率が器用値。同じ攻撃力でもダメージ式の最後にちょっとしたランダムな数字が入って、結果が10通りになるのよね。それで器用値が高ければ高いほど良い結果が出ちゃう。
たとえ、同じステータス同士の戦いでも、器用値が高い方が効率的にダメージを与えれるし、ダメージも減る。
私の器用値だと外れだけ引きそうで頭痛い。
ここで留まっちゃいけない。私はツルハシを強く握る。
チュートリアルステージ、廃坑牢獄。
ドワーフは裏切者や密告者、そしてヒューマンを捕まえた際にここに閉じ込める。枯れた坑道は歩く死骸と貧乏くじを引くのが上手なドワーフが寝ずの番をする場所でもあった。
ツルハシ片手に鍵をかけただけの牢屋を壊し、敵を薙ぎ払い、脱出せよ。
攻略開始。