周りからの奇異な視線に慣れたのはいつ頃からだろうか?
正直、まだ慣れていない。ちょっと気持ちよくなってきてはいるけどさ。
幼子たちに指されては笑われ、それを母親たちが危ないと止める。見ちゃダメとも言い出して、子を追い払う。男たちは酒のつまみか、それとも怪異に対しての対策なのか集う。
酒のつまみだね。みんなジョッキ持ってるもん。
わぁ、酒の匂いがこっちまで来てるわ。
前世だと酒は割りと飲んでいた方。そもそもマイファンの大半が年上だし、男も多くて割と酒飲みもいた。大学に入れば、居酒屋での飲み会とかに参加する事も多くなっちゃって。まぁ、行けない事だけど、一杯二杯は好奇心で飲んでたりする。
とはいっても、酒が好きかどうかと言えば、正直そこまで。ソフトドリンクの方が好きだし、一人で飲むことなんてあんまりない。
でもバイトのストレスを酒で誤魔化す様に飲むことはあった。
今はもう昔…ではないね。転生して一日も経ってない新生児です。おぎゃー!
それはそれとして、私は今しているのはグリッチの一つ。
壁抜け(ツルハシ版)だ。これは中期で発見されたグリッチの一つ。ツルハシの武技が地形にも引っ掛かる事が判明したことから研究が進められたことだ。
ストーリーモードだと中盤以降入手可能な靴装備『イカロスの羽靴』でジャンプ力が強化してから向かえる場所は多くある。
一部ダンジョンなどイカロス前提のステージが多いけど、なんとツルハシの武技で足場の淵を引っ掻けることで上に登れる。
公式が作ったシーケンスブレイクが存在する。
一応、NPCがツルハシの崖登り伝説を話しているからそこから推測は可能だったり。
崖登り自体は公式が用意した要素なのか、早期発見されていたけど、これがグリッチに繋がったのは序盤の山を開始して登るRTAの生配信で発見されたのよね。
廃坑のある山は序盤の中でも最高峰でもある為にRTAを行った人たちが多かった。初期の方で多様されていたのが初期装備のショートソードの武技を利用した走法だったけどね。
しばらくしてから、ツルハシ運用の走法が主流になり、登山RTAは廃坑クリア後に山から下りて麓の村でツルハシを購入することからスタートするようにルールが変更された。
購入後はまっすぐ私の今いる村に向かい、ゴツゴツした崖にツルハシでの武技を使って登っていった。
この村には隠しダンジョンも存在している。このダンジョン、後半のイベントでこっそり開くダンジョンの一つだから、割と知られてない方のダンジョンでもあったのよね。
とある走者が配信中にこのダンジョンの隠されている入口にツルハシの武技を使った瞬間、引き寄せる様に壁に衝突。
その後、上下に激しく揺れていったのよね。走者も当時は絵面の面白さからか、暫く観察していてけど徐々に中へと入っていくことに気付いた。
これは大きな衝撃だった。後半じゃないと入れない隠しダンジョンだし、このダンジョン、ゲートキーダンジョンの一つな上にボスが低レベルでクリアできるギミック式のボスだったの相まって、ローレベ勢からRTAの走者まで全員が注目を受ける事になったのよね。
恋するお盾が発見されるまで主流になっていたのが隠しダンジョンルート。ギミックボスを早期クリアする事である程度の経験値を得て、序盤でも安定したステータスで進めれるのも利点になっていた。
ちなみに恋するお盾が主流になったのは無視できるギミックの数の差が原因。
序盤一気に5分程度短縮できるのと、全てで30秒ずつ短縮できるなら後者の方が短くなるってわけ。
と言うわけで私は今、壁抜けバグをやっている。
「おーい、そこのお嬢ちゃん!」
「わわわわたたたたああああああししいいっぇぇぇ」
声が震える!!
返事ができない!!ごめん!!お爺ちゃん!!優しそうなお爺ちゃん!どんびかないで?!
勇気を出した一歩に対して、撤退の三歩は大きいよ!周りのみんなも私をそんな目で見ないでぇえええええ!!
スポン!と何かが抜ける感覚と共に私の視界は光に包まれた。
抜けれたぁ。私は尻餅を着いた状態で光を眺める。完全に妖怪というかモンスターの一種じゃん、私は。
でも、目的地には入れた。ここが今回私が攻略するダンジョン、【ラーヒブ・ダムア】。その場所だ。
ゲートキーダンジョン、ラーヒブ・ダムア
龍を祈り、先祖を崇める聖職者には様々な禁忌を背負う。慟哭を忘れ、慈しむ心を砕かれる。ただその一心を龍へと、我らが父へと注ぐことのみ。
神の目が届かぬよう、防いだ洞窟。その中のみ、涙の意味を思い出しても良いかもしれない。