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第3話 ぶっ飛ばしてやりたい!


太郎は次郎を追いかける暇もなく、慌てて三郎を抱き起こした。「どこが痛いんだ?兄ちゃんに教えてくれ。」


「ここ……それから、ここも……」三郎はすすり泣きながら、お尻とふくらはぎを指差した。


太郎がそっとズボンの裾をめくると、拳をぎゅっと握りしめた。「!」


三郎の白い足には、見るも無残な大きな青あざができていた。


太郎の胸に怒りがこみ上げる。さっきまでは次郎を止めようとしていたのに、今は一緒にやり返せばよかったと後悔していた。こんな目に三郎を遭わせて、まるで三郎に味方がいないとでも思ってるのか!


「大丈夫だよ、兄ちゃんが吹き飛ばしてあげるからね。」太郎は怒りを抑え、優しく慰めた。


三郎は涙目でうなずいた。「……うん。」


そのころ、次郎は森下美月を追いかけて駅を出ていた。


彼女が車に乗ろうとした瞬間、次郎は素早く前に立ちふさがり、子どもらしい強気な声で言った。


「悪い女!俺の弟をいじめて、誰の許しを得たんだ!」


悪い女?


森下美月は眉をつり上げ、次郎をにらみつけた。――本当にこの生意気なガキ、ぶっ飛ばしてやりたい!


だが、車の中には藤原悠真がいる。ここは大人らしく振る舞わなければと、仕方なく声を潜めて言い放つ。「お前、誰に向かってそんな口きいてるの?」


「お前だよ!ブスで性悪でババア!救いようがない!」次郎は叫ぶや否や、ポケットから小さなナイフを取り出し、黒光りするベンツの車体を「シャッシャッシャッ」と傷つけ始めた。


車体に浮かび上がる傷跡を見て、森下美月は悲鳴を上げた。「やめなさい!この車が誰のものかわかってるの?命が惜しくないの?!」怒りで次郎を捕まえようとする。


次郎は素早く身をかわし、森下美月と車の周りをぐるぐる回る。まるで猿回しのような光景だった。


藤原悠真は車内から様子を見て、眉をひそめる。「健太、見てきてくれ。」


「はい。」


小林健太がドアを開けようとした、その時――


「ドン!ドン!ドン!ドン!」


4つの大きな爆音が鳴り響いた!


車体が突然、がくんと沈み込む!


「きゃあああああ!」森下美月の絶叫が耳をつんざく。


藤原悠真が車から降りると、表情が一瞬で氷のように冷たくなった。


煙を上げて転がる4つのタイヤ。高級車は無残にも地面にぺたんと座り込んでいる。


腰の高さにも満たない、マスク姿の小さな男の子が、森下美月を指さして堂々と叫んだ。


「俺様は今日が初めてだぞ、今回は見逃してやる!また弟に手を出したら、覚悟しとけよ!ブス!ババア!性悪!覚えてろ!」


藤原悠真「……」

小さいくせに「俺様」だと?これでまだ本気じゃない?本気になったらどうなるんだ……。一体どこの家のとんでもないガキなんだ。


次郎は言い終えると、すぐにその場を離れようとした。


だが、突然後ろ襟をつかまれ、足が宙に浮く!


次郎はばたばたと暴れて叫ぶ。「誰だ!離せ、俺様を!」


藤原悠真はひょいと次郎を自分の正面に向けて、「お前、誰なんだ?」と低い冷たい声で問いかけた。


「俺は……」次郎は言い返そうとしたが、藤原悠真の顔を見て一瞬固まった。


あれ、このおじさん……太郎や自分にそっくり?まるで大人になった自分たちみたい!


まさか……あの、産んだだけで育ててない「父親」ってやつ?でもママはパパはもうとっくに亡くなったって言ってたし?


いや、たまたま似てるだけだ!


次郎はぱちぱちとまつげを動かし、ふんぞり返って言った。「顔が俺のパパに似てるから、今回は許してやるよ!早く手を離せ!さもないと、俺様だって黙っちゃいないぞ!俺が本気出したら、自分でも手に負えないからな!」わざとらしい変顔をしてみせる。


藤原悠真の目はさらに冷たくなった。小さいくせに、口だけは一人前だ。もしこの子の目元が、息子の優にそっくりでなければ、とっくに警察を呼んでいた。


「お前のやったことは、犯罪だぞ。」


「先に手を出したのはあのババアだからな!」次郎は森下美月を指差す。


森下美月は怒りで顔が真っ青。「この……!」


藤原悠真は冷たく言い放った。「理由はどうあれ、お前が悪い。」


次郎は眉をひそめて言った。「お前は俺の父親じゃないだろ?なんでえらそうに説教してんだ?お前、誰だよ?」


「お前の親はどこだ?」藤原悠真は子どもとやり合うつもりはなかったが、親を呼ぶ必要があった。車は五千万円。初日で廃車だ。責任は取ってもらう。しかもタイヤの壊れ方は、明らかに仕掛けられた爆発。子どもができることじゃない。誰かが子どもを利用しているのかもしれない。調べる必要がある。


親を呼ぶと言われ、次郎は一気にしょんぼりした。


怖いもの知らずの次郎も、ママが怒るのだけは苦手だった。叱られるのはまだいいが、ママが悲しむのだけは絶対に嫌だ。


次郎は急に大人しくなり、ぼそっと言った。「……だったら、パパを探せば?ママは忙しいから無理。」


藤原悠真はそれで十分だった。女は相手にしたくない。「パパはどこにいる?」


「地獄だよ、十八番目の階だ!お前が会いに行けばいいだろ。」


藤原悠真「……」


森下美月はすかさず藤原悠真に訴えた。「悠真さん、見てください!この野良ガキ、あなたを呪ってるんですよ!みすぼらしい格好して、どうせ貧乏な家の子でしょ!しつけもなってない!」


「はっ!しつけがなってないのはどっちだよ?」次郎はすぐに反撃。「大人のくせに五歳の子どもいじめて、アンタの親はどうやって育てたんだ?」


「まだ二十八よ!」森下美月は悲鳴を上げた。


「二十八?見た目は八十二だな!」


「こ、この……!」


「うるさい!これ以上騒ぐなら、俺様が代わりに親のしつけってやつを教えてやる!」次郎が言い終わる前に、腕時計の電話が鳴った。


ママだ!きっと待ちくたびれてるに違いない。


ママを心配させたくない次郎は、すぐに藤原悠真に言った。「用事ができたから、もう遊んでやらないぞ!バイバイ!」


言うが早いか、次郎は足で蹴って手を引っ込め、ぬるっと上着から抜け出すと――一目散に逃げていった。


「その上着、やるよ!感謝しろ!」走りながら叫び、小さな体は人ごみに消えていった。


藤原悠真は空っぽの上着を握ったまま、顔をこわばらせる。


「急いであの子を調べろ!親も連れて来い!それと、タイヤがどうなったのかも徹底的に調べろ!」


「はい!」小林健太はすぐに部下とともに駅の中に駆け込んでいった。


藤原悠真は森下美月の方を鋭い目で見て、「なぜ君が弟をいじめたと言われてるんだ?」と問う。


森下美月はすぐに無実を装い、「私が子どもをいじめるわけないです!あっちの弟がタダ乗りしようとしたんです。信じられないならマネージャーに聞いてください!あんなウソつきの子ども、親もどうせまともじゃないですよ!田舎の貧乏人のガキなんて、みんなまとめて刑務所にぶち込めばいいんです!」


藤原悠真は彼女を冷ややかに一瞥し、嫌悪を隠さず、何も言わずにその場を離れた。


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