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第1話 ー出会いー

村から離れた森の奥深くに隠れるようにひっそりと建つ家にミシェルは住んでいた。



以前は母と一緒に暮らしていたがその母が突然、居なくなり今は一人きりで住んでいる。



「ノエ起きてそこにいたら洗濯物が干せないわ」

ある日フラッとやって来て勝手に住み着いた黒いメス猫に声をかければ

『うるさいわねぇ』

と言わんばかりに片目を開け尻尾を振って抗議をする。


「ダーメ。尻尾で文句を言ってもダメよ。今日は天気がいいから干すって言ったじゃない」

ミシェルはまるでノエの言ってることがわかるかのように返事をして邪魔にならない場所から洗濯物を干していく。

『わかったわよ』

と不満気に寝ていた場所から飛び降り違う場所へと移動して、また寝始めた。


「ありがとう」

ミシェルはそんなノエの様子を見て小さく笑い続きを始めた。ノエが寝ていたのは日当たりのいい場所だったのだ。洗濯物を干せば日陰になってしまうし、ノエが邪魔になってしまう場所だった。



ノエはミシェルの母がいなくなってから数日たったある日、どこからともなく突然やって来て住み着いた黒猫である。初めこそミシェルは戸惑ったが今では大切な家族だと思っている。



洗濯物を干しながら鼻歌を歌っているミシェルとその歌を聞きながらゆらゆらと尻尾を揺らしながら寝ているノエの間には静かで穏やかな時間が流れていた。



ミシェルが洗濯物を干し終えたその時、寝ていたノエが突然、何かに反応するようにムクリと起き上がる。


「ノエ?どうしたの?」

それに気が付いたミシェルが声をかけると

「にゃぁ」

ついてきてと言わんばかりにひと鳴きして森の中へ走り出す。

「えっ?あっ、ちょ、ノエ待って」

ミシェルは突然のことで驚いたが急いでノエの後を追うために駆け出した。




         ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



家から少し離れた所で動物たちが騒いでる声がミシェルの耳にも届いた。心なしか空気が少し重たい。



不意にノエが走る足を止めゆっくりと歩きだす。

「ノエ?ここなの?」

ノエの目的の場所がここなのかと声をかければ

「にゃぁ」

と短く鳴いて返事をする。ミシェルは走ってあがってしまった息を落ち着かせるために何度か深呼吸を繰り返す。そして、前をよく見れば何やら黒い塊の周りに小動物が集まっていた。


ノエが止まらずに進んでいくからミシェルも恐る恐る黒い塊に近づいていく。そして、その塊を見て驚いた。

「竜!大変!怪我をしてるわ。このままじゃこの子が死んじゃう!」

その黒い塊は片翼を大きく怪我したまだ小さな竜だったのだ。その傷口からは血が止まることなく流れている。このままでは本当に死んでしまう。そう思ったミシェルは服が血で染まることも気にせずに竜を抱き上げると大きな傷口に手をかざした。


「大丈夫。絶対に治るわ」

見せるが呟いた瞬間、かざした手が光、大きな傷口から流れていた血がゆっくりと止まっていく。

「これでよし。血は止まったけど、傷口が大きすぎて完全には治せない。連れて帰るわ、いいよねノエ?」

血は止まったけれど傷口が塞がったわけではない。その治療をするために家に連れて帰ると、いつの間にか隣で様子を見ていたノエに問う。

「なぁう」

ノエはそれでいいと言わんばかりに返事をする。

「ノエ、急いで帰りましょう」

ノエの返事を聞きミシェルは竜を抱き上げ自分の家に帰るために歩き出した。




          ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



竜を抱いてノエと帰ってきたミシェルは、ふかふかの布の上に竜を置き、傷の手当てをする準備を始めた。



「これでよし。血もちゃんと止まってるし傷口の消毒とかも終えたし後はこの子の生命力次第ね」

怪我した竜の手当てを終えて、専用の寝床も作って寝かせて一息をついた。深く大きな傷口は血止めをして治療したが竜はまだ目覚めない。大量に血を流していたこともあり後は本人の生命力に頼るしかミシェルには手がなかった。



「私も着替えなきゃ…」

ミシェルは自分の服が竜の血で汚れていることを思い出し、違う服に着替え始めた。



「この力…母からはあまり詳しくは教えてもらわなかったけど…竜の治療にも効くのね…」

ミシェルは自分の手をマジマジと見て呟く。



幼い頃から自分には不思議な力があるのは知っていた。怪我した小動物を治したいと思ったときに力が発動したのだ。治癒の力。小さな傷なら簡単に治せる。

母に聞いた時に

『その力は人の前では使ってはダメよ』

人前で使うなとキツク言われた。

ミシェルはその言い伝えを守って生活してきたのだが、ある日、村の少女が大きな熊に襲われ足を怪我した。その少女の怪我を力を使って治してしまったミシェルはその日から化け物扱いされるようになった。


その時になって母の言った言葉を理解したのだ。だから母は村から離れてこんな奥深くに住んでいるんだと知った。



「なぁう」

ジッと手を見たまま動かなくなったミシェルを心配してかノエが鳴いて声をかける。その声にハッとして

「大丈夫よノエ。この力のことは嫌いじゃないわ。だって、怪我した子たちを助けられる力だもの」

小さく笑って心配しなくてもいいと告げる。

「にゃぁう」

ノエはもうひと鳴きするとクルリと踵を返すと日の当たる定位置へと戻り眠った。

「ありがとうノエ」

それを見届けてミシェルはお礼を口にした。




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