昨日はリュオンが目覚めたことでミシェルは嬉しくて、少しはしゃぎすぎてしまい、夕方には疲れて早めに眠りについてしまった。リュオンはそんなミシェルに驚きはしたものの、随分と心配を掛けさせてしまったと思った。ジッと様子を見ていないで、もう少し早く元気な姿を見せてやればよかったなと内心で反省をしていた。
「よっと…んー、届かない」
ミシェルはリュオンのケガの治療の為に棚の上の方の荷物を取ろうとして、背伸びをするがもう少しが届かない。
「これでいいのか?」
そんなミシェルに声をかけてリュオンが手を伸ばす。
「えぇ、ありがとう」
ミシェルはリュオンが取ってくれたもの受け取りながら振り返って驚いた。
「りゅ、りゅ、りゅ、リュオン、貴方その姿…」
そこにいたのは幼い姿のリュオンではなく、成長した、そう青年の姿をしたリュオンだった。
「えっ?」
リュオンはミシェルの言葉に驚き自分の姿を確認して驚いた。
「えっと、竜族の人はそんなにも成長が早いのかしら?」
竜は人よりも長く生きる。そう考えれば不思議はないが、昨日まではいや、数時間前までは確かに子どもの姿だったのだ。それがたった1日で青年の姿にまで成長するのだろうか?ミシェルは竜族はそういうものなのか?と考え込んでしまった。
「これは…消えてる…」
リュオンは自分の身体についていたはずの模様が消えているのに気が付き呟いた。
「リュオン?」
その呟きを拾ったミシェルは不思議に思いながら声をかける。自分の身体を見て呟いてからリュオンは固まったかのように動かなくなってしまったのだ。
ミシェルがどうしようか悩んでいると、ずっと様子を見ていたノエが
「なぁん」
鳴きながらリュオンの足に頭突きをしながら甘える。
「えっ?あっ、ごめん」
ノエの頭突きに気が付いたリュオンが頭を掻きながら謝りノエを抱き上げる。
「なぁん」
ノエはしっかりしろとばかりにリュオンの鼻先をカプリと噛みつく。
「いてっ、ごめんってノエ。もう大丈夫だ」
リュオンは噛まれた鼻を押さえノエに何度も謝る。ノエの尻尾はゆらゆらと揺れていた。
「ふふふ。リュオンもノエも楽しそう」
そんな二人を見てミシェルが笑う。そんなミシェルを見て、二人は
「なぁう」
「楽しいより、痛いんだけど…」
ミシェルに文句を言った。ミシェルは驚いた顔をするが、ふふふとまた笑った。
「少し、話をしようか」
リュオンが少し真面目な顔をしてミシェルに声をかければ
「はい」
ミシェルは返事をして包帯を片付ける手を止めた。二人の傍ではノエが寝ていた。
「俺は竜王の命により2つの目的があってこの地へ出向いたんだ。だけど、思わぬ出来事に遭遇して大怪我を負って君たちに助けられた。簡単に説明するとこんな感じだな」
リュオンはこの地に来た理由を教えてくれる。
「目的を聞くことは可能なのかしら?」
ミシェルが聞いても大丈夫なのかと確認を取ると
「あぁ、どうせミシェルに尋ねないといけないこともあるからな」
なんてリュオンはあっさりという。ミシェル的には拍子抜けである。
「じゃぁ、教えて」
ミシェルは聞けるなら聞きたいと隠さずに言った。リュオンはそんなミシェルに小さく笑ってしまう。
「1つは君がさっき言った俺の成長のことだ」
リュオンの言葉にミシェルはどんな秘密があるのかとワクワクとした顔になる。
「俺は生まれた時から誰かに呪いをかけられていたんだ」
リュオンから意外な言葉が出てて来て
「呪い?えっ?どういうこと?」
ミシェルが驚き声を上げる。竜族に呪いをかけるなんて、なんて恐れ多いことをしたんだとミシェルは思った。
この世界に住む人は皆、竜族を神の使いと呼ぶ。それは古より伝わる言い伝えに出てくる少女と一緒になったのが竜族だと言われているからである。世界を救った少女が竜と恋をして幸せになったと言い伝えられ竜は神の使いとして人々に親しまれているのだ。勿論、人々が竜に触れることなど言語道断。下手をしたら罰せられるとまで言われている。
「理由はわからないが、俺は誰かに時の呪いをかけられある一定の年齢から身体が成長できなくなってしまったんだ。そうだな、丁度ミシェルに見せたあの子供のころの姿から俺は成長できなくなってたんだ」
「えっ?えぇぇぇ!!!じゃ、じゃぁ今の姿がリュオン本来の姿ってことなの?」
リュオンの言葉にミシェルが驚く。
「そうなるんだろうな。俺も自分が成長した姿なんて初めてだからわからないよ」
リュオンは自分でも驚いてるので苦笑を浮かべた。
「えっ?でも呪いはどうなったのかしら?」
呪いがかかってたからリュオンは成長できなかった。じゃぁ、リュオンが成長してるということは時の呪いはどうなったのか?ミシェルの頭には疑問が一杯だった。
「多分、呪いは消えたと思う。俺の身体には時の呪いがかかった証に模様が出てたんだ。今はそれが全て消えてる」
リュオンは自分の腕をミシェルに見せて説明をする。ミシェルはリュオンの腕を見て驚いた。確かに子どもの姿をしていた時はまだ両腕にバラの蔦のような模様が絡まるようにあった。でも今はそれが無くなっている。勿論、首元にあった模様もである。
「でも、どうやって呪いが解けたのかしら」
ミシェルは理由がわからず首を傾げるが
「これは俺の憶測だけど、多分ミシェル君の力が関係してると思うんだ」
リュオンは何かを考えながらいう。
「えっ?えぇぇ!!なんで力のこと知ってるの?私、教えてないわ!」
ミシェルはリュオンが力のことを知ってることに驚いた。
「あっ、イヤ、治療してるときに使ってただろ?うろ覚えだけどそれは知ってる」
リュオンは意識が朦朧としてるときにミシェルが力を使って血止めをしているのを見ていた。それだけじゃなく、この家に来てからも傷が塞がるまでずっと使っていたのを知っている。夢現で見ていたのだ。
「えっ?うそぉ。ずっと気付いてないって思ったわ」
ミシェルはリュオンに気付かれていないとずっと思っていたので本当に驚いていた。
「でも、力と呪いと何の関係が?」
力を使ってのは確かだが、時の呪いがかかってることはミシェルは知らなかったのだ。だから何がどう関係してるのかがわからなかった。
「ミシェルは俺の傷を治すのに治癒の力を使っただろ?多分それが作用して呪いを解いたんじゃないかなって…」
リュオンはあくまでも自分の憶測だからという。
確かにあの時はリュオンの傷を治すのが一生懸命で治癒の力を多用してでもいいと思っていた。それだけリュオンの傷は大きく深かったのだ。だが、その為に使った力がそこまで大きく作用するなんてミシェル自身も驚きだった。
『この力…本当になんなのかしら?』
ミシェルは自分にある力の正体を全く知らなかったのである。