叫び声をあげて固まってゆうに1時間が過ぎた頃やっとミシェルは正気を取り戻した。
「えっと、貴方は私とノエが助けたあの竜なの?」
ミシェルが言えたのはこれだけだった。他に色々と聞きたいことはあったけど、今、目の前で起きた出来事に頭が付いてこない。
何故なら、ミシェルの前で竜がまた子供の姿になったからである。
「はじめまして、俺の名はリュオン。ここの森一帯を守護する竜族の王子だ」
にこやかに挨拶をするリュオンとうって変わってミシェルは青ざめ倒れそうである。
それもそのはず、この森一帯を守護する竜族と言えば、古くから言い伝えに出てくる竜族だ。その王子が目の前にいるとなれば自分は誘拐扱いされるかもしれない。怪我をした王子を助けたといえど、自分の家にまで連れ帰ったのだから。
「ど、ど、ど、どうしよう」
ミシェルは腰が抜けついにはその場にへたり込んだ。
「なぁん」
そんなミシェルにノエが頭突きをしながら甘える。それはまるで
『心配することはない』
と言ってるようである。
「何をそんなに恐れる必要がある?」
リュオンはミシェルがなぜ慌てふためいているのかがわからなかった。
「だって、貴方は竜族の王子なんでしょ?それなのに、私は貴方をここまで連れてきてしまったわ。だってしょうがないじゃない。あの場所では治療が出来なかったんですもの。でも…私は大事な王子を誘拐してしまった」
どうしようと呟くミシェルに
「俺を誘拐したのか?」
リュオンが問う。
「違うわ!治療のために連れてきたのよ!だけど貴方は一向に目覚めなくて毎日、心配だったわ助からなかったらどうしようって…」
誘拐していないと言いながらも、リュオンが目覚めなかった時の不安を口にする。
「なんだ、やっぱり誘拐犯じゃないじゃないか。ならなんの問題もない。俺は助けてもらってこうやって元気になった。で、君の名は?」
ミシェルとは反対ににこやかに話すリュオン。それだけでミシェルの不安が和らいでいった。
「私の名はミシェル。この子はノエよ」
ミシェルは自分の名と一緒に膝の上で寛いでいるノエの名も告げた。
「ありがとうミシェル。君のお陰で色々と助かったよ」
もう一度、お礼を口にする。
「そんな、お礼はノエにしてあげて。この子が最初に気がついたの。私はそれに着いていっただけだわ」
ミシェルはあくまでも見つけたのは自分ではなくノエだという。
「でも、治療してくれたのはミシェルだろ?だったら2人にお礼はいわないとな。ありがとう」
ミシェルはリュオンからのお礼がなんだが照れ臭くて、くすぐったくて、恥ずかしかった。
「ずっと寝てたからお腹すいたんじゃない?何か食べる?って、リュオンは何が食べれるのかしら?」
ミシェルはご飯をと思ったが竜族であるリュオンが何を食べるのかわからず、結局はリュオンに聞くこととなった。
「ミシェルが食べるもので大丈夫。俺は人が食べるものなら食べれるんだ…特殊だからね」
にこやかに笑ったまま言われたが、ミシェルには最後の言葉の意味だけがわからなかった。
『特殊?特殊とは?』
ミシェルは台所に向かいながら頭を傾げたがそれに対しての答えが返ってくることはなかった。
こうして、ミシェルと竜の王子リュオンとの生活が始まったのだった。