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振り返り

 私が異世界で仲間としていた人たちのことと、異世界のことを少し話しておこう。

 まず、私は35歳女性である。トラックに引かれて死んだと思ったら、18歳のオッドアイの青年になっていた。

 周りの人から聞くと、サマセットという国の特別な軍事作戦でふっとばされた後、両目青だったのが右目黒に変わったとのこと。そんなことある?

 異世界は、魔国という国に侵略されて、長く戦っていた。そして魔力というエネルギー源が存在したけれど、魔国が多用するエネルギー源なので魔力は嫌われていた。

 私が憑依したのは、そんな嫌われ者の魔力を勝つために使う軍の一派の一人。魔力は

 用途別の術式(デザイン)に流すことであらゆることに使えるが、術式を作る術者だった。それも、天才的な。

 しかし、私はそんなスキルないのである。困る。

 術者の幼馴染で看護師の女の子がえらく悲しんでいたので、私はまず術者の魂を探すことにした。そんでもって、すぐ見つけた。女の子になついて離れない黒猫の片目が、明るいところでも瞳が細くならない。猫でなく人間の目だったのだ。

 碧水石という便利なものがあった。これは、身に着けていればどんな言葉でも翻訳可能なチート鉱石である。その碧水石を黒猫に付けると、黒猫の言葉はすぐ分かった。


「僕だよ!起きたら猫になってたんだよ!」


 私の魂が術者の体に入り、術者の魂は弾き飛ばされて猫に入っちゃったのである。で、私の片目だけ異世界に転移してることも判明した。オッドアイの理由である。術者の右の碧眼は、猫の右眼として健在だった。私の右目は、莫大な魔力を持つとのことだった。


 他人の身体を借りてずっと暮らす訳にも行かない。私は術者に体を返して元の世界に帰りたかった。だけど、帰るための研究をするには、戦争を終わらせてサンセット国に余裕をもたらさなければならなかった。

 なので、帰る方法を探しつつも、私は軍にいろいろ協力した。そしたらえらく成果が出てしまい、私はなぜか勇者と呼ばれることになった。


 ある時、勇者たる私に、秘密裏に魔族からの接触があった。名乗らない彼は、ただ魔人と呼んでくれといい、魔国の事情を話した。

 魔国は、開拓できる土地を求めてこの国を攻撃した。しかしここ数年、事情が変わった。魔国は、恐竜しかいない新規世界(別の異世界)を見つけたのである。大量の兵士よりでかいだけの恐竜を倒すほうが楽だから、新規世界を開拓したほうが楽となったのである。

 なので、魔人は戦争をやめたい一派だ。しかし、これまでの戦争でサンセットに被害を受けた人たちは絶対聞き入れない。戦争に勝つまでやめそうにない。なので、魔国の兵士の被害はなるべく出さずに、けれど戦争派の心を折るようにしてほしい。それが、魔人の頼みだった。

 私は、魔族軍の施設を軒並み潰し、兵士にはできるだけ被害を出さないことを提案した。そして、魔人と合意に至った。


 サマセットには傷痍軍人がたくさんいた。私は魔力で動く義肢を提案し術者に作ってもらっていたが、もう少し考えを進めていた。

 魔力で土砂を固めて作った、魔力で動く人形。それを大量にを作って、傷痍軍人たちに遠隔操作させれば、訓練された兵士を大量に戦争に投入できる。

 で、私は莫大な魔力を持っていたので、土砂でできたクソデカ怪獣を遠隔操作して、魔国の施設を踏み潰しまくった。そして、魔国はようやく侵略を諦めた。

 戦後処理、魔神からのお礼。ようやく、私が帰る方法をじっくり探る余裕ができた。


 帰る方法を探す中で、私には仲間と呼べる人たちができていた。


 一番協力してくれたのは、兵士になるために男装を余儀なくされていた子である。彼女は名門軍閥貴族の末っ子で、上が全部女ばかりだったことから無理やり長男とされた。それだけなら、どこのオスカルだという話だが、彼女は思春期から男性ホルモン様物質を投与され、見た目はほとんど男性になっていた。

 けれど、彼女は女性として生きたかったのだ。

 私は「私のいたの世界は、整形だのなんだので体をある程度女性寄りに戻せるよ、女性の声出す技術もあるよ」と伝えて、帰る方法探しに協力してもらっていた。軍の関係でもいろいろ世話になった。


 術者も仲間だった。彼は術式の天才だったけど、非常に引っ込み思案で人前に出ることを嫌がる子だった。私は対外的なことを引き受ける代わりに、術式をいろいろ注文した。彼は黒猫の体に術式で人間の手を付け、あらゆる注文に答えてくれた。

 私にはかなり懐いてくれたけど、あんなシャイであれから先やっていけるんだろうか。まあ幼馴染がいれば平気かな。


 術者の幼なじみの女の子は看護師で、術者の姉みたいな子だった。術者の魂を私が見つけたことにえらく感謝してくれた。そして、サンセットを知るものとして、看護師として、私と仲間たちの世話をたくさん焼いてくれた。


 あと、私の子分を名乗る男の子も、仲間としてよくやってくれた。彼は、私が帰る方法を探していた時に見つけた、若いならず者だったけれど、不法に稼いでいたのは彼を兄と慕う孤児たちを養うためだった。

 わたしは勇者扱いだったので多少の自由があり、彼を雇って孤児たちの生活もどうにかしたのだけど、そしたら彼は私を「兄貴!」と呼んで懐いてしまった。彼はサンセットの下層の暮らしを私に教えてくれたし、私は下層の暮らしを良くするために多少のことをした。あと、暇を見て彼に字を教えた。私もサンセットの言葉は習いたてだったけど、英語とそう変わらないので、碧水石と多少の勉強である程度ものになっていたから。


 魔人も、良くしてくれた人と言えるだろう。

 彼はサンセットと戦いたくない理由があった。サンセット出身の、特異体質の子供を保護していたのである。

 特異体質の女の子は、魔力を全て無効化する特異体質の持ち主だった。彼女が生きている限り、体の一部が魔力を無効化する。しかし爪や髪ではその効果がない。そのため、生命活動に必要な部品以外、軍に全て切除され、魔刻対策に使われていた。

 魔人は、魔力を精気に変えられる体質だった。精気は欠損を再生させる効果がある、時間は掛かるが。魔人は、保護した女の子の目・鼻・耳・歯・四肢を必死で再生させていた。

 私がその女の子に会った時は、四肢がもう少し再生すれば五体満足と言える状態だった。彼女は、生家に家に余裕がなくて売られたようなものだから帰れないと言っていた。そして、魔人に「治ったら何でもします、魔人さんのところで働かせてくれないでしょうか?」と言っていたけど、魔人は「何でもするなら、うちで勉強をするといい」と言っていた。きちんと教育を受けさせるつもりなのだろう。


 私の愉快な仲間たちはそんな感じ。

 ……で、彼らが、休憩室のテレビに映し出されている。

 私を探しに来た!?仮に彼らがこっちに来るとして、来る動機があるのは男装の子くらいだよ!?

 時間も場所も、座標を合わせるのは非常に困難だ。しかも、魂だけじゃなくて実体を伴って。いったい、どれくらい労力をつかったんだ……。


 しかし、私は名乗り出る気はなかった。

 サンセット国は、五体満足な成人男性しか人権がないような国だった。そして、子を生み増やす女性にしか用がない国だった。それ以外の人間は、本当に人権がなかった。

 そんな国の子たちに、35歳独身子なし義足の私が出ていったら、どういう扱いをされると思う?

 それに、おそらく身分が異なるのである。魔力は強いエネルギー源で、術式さえ整えれば原発並みの電力だって賄える。それを男装の子に教えてあるから、この世界に来た彼らはほとんどの国の人間から、重要で特別な人物として重用される。ピペット土方など、お呼びではないのだ。


 ……けれど、彼らはどうしても、「勇者」に会いたかったのだ。

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